【第6章】想いを告げる

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 あの、と。  ふいにダリルに呼びかけられる。 「姫様とプリシラ王女が仲のよい姉妹に戻られたと……。心からよかったと思います。プリシラ王女から、姫様を必ずお守りするよう言いつかっていたことは、あなたに知らせることができたらどんなにいいかとずっと思っていたので」 「……!」 「それだけ、お伝えできればと思いましたので。すみません、呼び止めてしまって」  そうだ、と思い至る。 (ダリルは、プリシラとそう約束していたって……)  ダリルとプリシラの間で約束が交わされたのは、ダリルがまだネリネの騎士になっていなかった頃の話だ。  当然その頃は、プリシラがネリネを嫌っているというのは、王宮中によく知られた事実だった。ネリネを守ってほしいというプリシラの願いに、ダリルはきっととても驚いたことだろう。 「プリシラに、口止めされていたのね」 「……はい。自分は姉君に許されてはいけないから、と」  プリシラは本心を隠し、ネリネにあえて嫌われようと振る舞っていた。  (かたわ)らで見ているダリルとしては、ずっと歯がゆい思いをしていたに違いない。  ……それを、思えば。  胸の奥底から湧き上がってきた言葉を、彼に伝えずにはいられなかった。 「ありがとう、ダリル。あなたのおかげね」 「……? 俺は特に、何もしていませんが」 「いいえ。私とプリシラが仲直りするきっかけをくれたわ。ダリルがいなければ、私は今も、あの子を恐れて遠ざけたままだったでしょうから。……あなたは私を、弱虫姫ではないと言ってくれた。でもやっぱり、私はとても弱いのよ。臆病(おくびょう)で、ずるくて、時々どうしようもなく、自分のことが嫌になって仕方なくなる」 「姫様……」 「ごめんなさい。あなたの前で、弱音を言うつもりはなかったのに。私、どうかしていたわね」  淡く弱く微笑みながら言ったネリネに、ダリルはしばらくの間、考え込むような長い沈黙を見せた。  けれどやがて、静かな声で彼は答える。 「弱さは、誰の中にでもあるものです。あなたの持つ弱さを、俺には責めることも笑うこともできません」  意外に感じて、ネリネは思わずダリルを見上げていた。 「……ダリル。あなたにも、恐れているものがあるの?」  はっきりとした返事はなかった。  問いに対して、ダリルはただ、かすかな微笑(びしょう)を浮かべただけだ。 「…………」  風のそよぐ音すらはっきり聞こえるほどの静寂が、あたりに広がる。  一切の言葉が出なかったのは、目をそらせなかったのは、ダリルが見せたその笑みが、あまりに悲しげに見えたからだ。
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