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ネリネはもともと、内気でおとなしい性格だった。
人前に出ることは苦手で、恥ずかしがり屋。
幼い頃はもっとひどくて、何とか社交の場に出ても、母の後ろに隠れて立っているだけで精一杯だった。
子どもの頃は、それでもよかった。
でも、成長するにつれて、人見知りの激しいネリネをよく思わない人は、だんだんと増えてきて。
『ねえ聞いた? ネリネ王女、この間のパーティでもほとんど何もお話しにならなかったって』
『ダンスの相手をしたよ。いやあ、王女殿下には悪いけど、あんなに気まずい時間を過ごしたことはなかったね。本当にいったい誰に似てしまわれたのか』
『やれやれ、この国のお世継ぎが、まさかあんな弱虫姫だとは……。先が思いやられるとはこのことだな』
ひそひそ、ひそひそ。
周囲の人々の話し声を聞くのが恐くなったのは、いったいいつの頃からだったか。
どこにいても、誰かに悪口を言われているのではないか、嗤われているのではないかと、不安でならなくなって。
ネリネの引っ込み思案な性格は、周囲の皆からますます呆れられていくばかりなのだ。
(本当に……気の毒だわ)
ネリネの従者になる騎士のことを思うと、気持ちが深く沈んでいくのを抑えられない。
――今日は、王族と騎士が特別な絆を結ぶ、誓いの儀式が執り行われる日。
ラウステラ国の王族は皆、十八歳になる年の春に騎士を一人、特別な従者として任命しなければならない習わしがあった。
王族のお付きとして任命された騎士は、それ以後、その王族の護衛と政務補佐を担うことになる。
文武の両方に特に秀でている者でなければ、王族の騎士に任じられることはない。
本当だったなら、王族の騎士に選ばれるのは、騎士達にとって最も名誉とされることだった。
騎士となった者は皆誰もが、王族のそばに仕える騎士になることを目指すと聞く。
……ただ、ネリネの騎士ともなれば、話は別だ。
(誰も、私の騎士になんて、なりたがるはずがない……)
弱虫姫とあなどられ、馬鹿にされる王女の、騎士。
外れくじもいいところだ。
ネリネの騎士になればきっと、ネリネと一緒に嘲笑を受けるか、同情の眼差しを向けられることになってしまうに違いないのだから。
ずきずきと痛む胸に手を当てて、押さえ込む。
気を抜けば、涙が溢れてしまいそうだ。
それでも、今、泣くことはできない。
誓いの儀式は、もうまもなく執り行われるのだから。
「お時間になりました。ネリネ王女殿下、どうぞ、大聖堂へとご移動を……」
開かれた扉から、聖教の使者が顔を見せる。
――いよいよだ。
ネリネはついに、自分の騎士となる青年と顔を合わせなければならない。
これから全生涯をかけ、ネリネに絶対の忠誠を誓い、ネリネを助け、守る役目を担うことになる人と。
「せいぜい頑張るのね。せっかくお姉様の騎士になってくれる人に嫌われないように。まあ無駄な頑張りかもしれないけどね?」
とどめとばかりにくすくすと笑うプリシラの声を背に、侍女に促されながら部屋を出て行く。
疼くような重苦しい胸の痛みを努めて無視し、目尻にうっすらとたまってしまった雫をこっそりと拭って。
ネリネは一歩、足を踏み出した。
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