ダムの底に

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 やっと雨がやんで辺りは日が差してきている。土砂崩れの場所は自衛隊によって少し片付けられたが、ここの住民は重機などを使えるので自分たちで土砂を退けて帰る準備を進めたくらいだ。たくましいな、と笑う。結局みんな多少不便と分かっていてもこの町が好きなのだ。少しずつ元の生活に戻りつつある。  遺体の身元が分かり住民たちは供養のために小さな慰霊シンボルを作ってくれた。放水によって押し出された大きな石の周りにはたくさんの花が供えらている。 「好かれてたじゃん、お前」  ダムによじ登り、花を供えに来る住民を見下ろして笑う。水位が上がった事でたどり着いた水辺で摘んできた花をポイポイっと投げた。 「ママ、すごいよ。大きな石の近く」 「わあ、すごいね」  川の流れがゆるやかなその場所は、たくさんの花が溜まっていた。様々な色の菖蒲が、紫陽花が、ゆらゆらと。まるで石を彩るかのように。 「京都だったかな、神社の手水舎に花を浮かべてるとこがあったけど。それみたい」  美しい光景に、親子は笑う。 「雨降ったら、流れちゃうね」 「さすがにしばらくは降らなくていいわ、困っちゃうから」 「うん。綺麗だね。写真撮ろうよ」 ――まあ、バズってくれよな。良い意味で。俺なりの手向(たむ)けってことで。  晴れているのに、ぴちょん、と一滴。河童の皿に雫が落ちた。
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