おもい、おもい。

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おもい、おもい。

 私、富美加(ふみか)ちゃん、絢美(あやみ)ちゃんの三人は昔ながらの友達だ。幼稚園からはじまり、小学校、中学校の今に至るまでの付き合いだと言っていい。性格はバラバラ、好きなものもバラバラ。だからこそ、お互いうまくやっていけるし、これからも本物の親友でいられると思っていた。  あの、雨の日までは。 「ふんふんふーん、ふんふふふふ、ふーん」  それは、中学一年生の九月のこと。  美術部の富美加ちゃんはご機嫌だった。放課後の教室、楽しそうに色鉛筆セットを鞄に入れている。今日の部活で使う、というわけらしい。  彼女の気分の高揚を示すように、右手の青い腕時計が窓の光でキラキラと反射していた。彼女は右利きなのに、時計は右手につけたいという変な拘りがあると聞いたことがある。邪魔にならないのだろうか。 「元気だねえ、富美加ちゃん。夏休み終わっちゃったのに、全然気にしてないってかんじ?」 「そりゃあもう!」  よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに彼女はこっちを見た。 「うち、秋って大好きなんよ!夏も春も冬もそれはそれで好きなんやけど、絵描きにとって秋ほど楽しい季節はないやろ?」 「紅葉が素敵だから?」 「せやせや!でもって、九月の下旬あたりからゆっくりはっぱが色づき始めるのを見るのも楽しいねん。毎日景色が変わるやろ?それをスケッチする楽しさは格別や、格別!色鉛筆なら面倒臭い準備もなんもいらんしな!」  小学校まではスポーツ少女だった富美加ちゃんは、六年生の時に色鉛筆画にハマったのがきっかけで今ではすっかり美術少女となっている。将来絵描きになりたい、この右腕は命より大事やの!と豪語するほどだ。  美術部では色鉛筆より油絵や水彩画を描く人が多いらしいが、彼女はそんなことおかまいなく色鉛筆画を描き続けているという。確かに、画材としては比較的安価で買えるし、本格的な店に行かなくても買い足せるというのも魅力の一つなのかもしれない。  実際、彼女の色鉛筆画は日に日にレベルが上がっている。夏休みの時に見せて貰った絵なんぞ、とても色鉛筆で塗ったとは思えないクオリティだった。 「いいなあ、富美加ちゃんは毎日楽しそうで」  私は苦笑いをして返した。 「私と絢美ちゃんはダメだよ、全然ダメ。最近憂鬱で憂鬱で。特に、絢美ちゃんはほれ、御覧の通り」 「あー……」  私が指さした先を見て、富美加ちゃんはなんともいえない声を出した。  放課後。みんなが少しずつ帰り支度をしている最中、一人教室の机に突っ伏したまま微動だにしない女子がいる。長いおさげ髪が特徴のもう一人の友人、絢美ちゃんだった。元はなかなかミステリアスな美少女という印象が強かった彼女も、最近はすっかり意気消沈してしまっている。 「……ゾンビ復活の魔法、必要なんとちゃうか?」 「だよね……」  さてどうしたものか。私と富美加ちゃんは顔を見合わせるしかないのだった。
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