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夏休みがあけてからの学校は、様々なイベントが目白押しとなっている。
そのうちの一つが、九月に行われる体育祭だ。運動が大好きな人間にとってはその分授業が潰れて超ハッピーなイベントであり、逆に運動が苦手な者にとっては地獄のイベントと言っても過言ではない。
美術部でありながら運動神経も悪くない富美加ちゃんは前者で、私と絢美ちゃんは後者なのだった。
特に嫌なのがムカデ競争である。疲れるし、暑苦しいし、仲間の足を引っ張りかねないので本当に最悪なのだ。しかも休み時間なども利用してたくさん練習しなければいけない。体力もやる気もない人間にとってこれ以上の苦行はないと言っていい。
「おーい絢美ちゃん、生きてる?」
私が声をかけると、絢美ちゃんはのろのろと顔をあげたのだった。彼女がこんなに疲れ果てている理由は単純明快、まさに今日は昼休みもムカデ競争の練習でつぶれたからである。
「……もみじちゃん」
私の顔を見て、絢美ちゃんは死んだ目で言った。
「今、異世界の魔女様と更新していたところなの。体育祭なる行事を、いかにしてこの世から抹殺できるのかということを。もうこの際、ムカデ競争だけでもいいわ。この世から消し去る魔法はどこかにないものかしら……」
「気持ちはわかるけど落ち着こう!?」
おまじない、オカルトなどに傾倒する絢美ちゃんは、時折こんな厨二病全開なことを言う。まあ、内容はともかく気持ちはわかる。大いにわかる。体育祭なんてものがなければ、こんなにも鬱々とした気持ちを抱えずに済んだのは間違いないことなのだから。
「やりたくないよね、体育祭。雨でも降ってくれたら中止になるんだけど、なかなかそうはいかないよねえ」
私の言葉に、ほんとうにね、と絢美ちゃんは返してくる。
「一日雨が降ったところで延期になるだけだもの。土曜日に降って、日曜日にも降って、さらに月曜日まで降ってくれないと中止にならないって話。というわけで、三日以上連続で雨が降ってくれるおまじないを全力で探しているわけ。……あたしみたいな運動音痴が練習したところで、上手になんかなれるはずないんだから」
「あはは……」
私もけして運動神経が良いわけではないが、絢美ちゃんの場合はその私が霞んで見えるほどスポーツが苦手である。学校の成績はけして悪くないのに、運動がダメすぎて体育の成績は常に2という有様だ。保健体育のテストでそこそこの点をとってどうにか1だけは免れているらしい。なんせ、中の下レベルの運動能力しかない私に、マラソンで周回遅れで抜かれるのが彼女なのだから。
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