おもい、おもい。

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 当然、ムカデ競争でも辛い思いをしているのは間違いない。なんせ、体力がないせいでみんなと同じペースで足が上がらないし、彼女一人が転べば全員が転んでしまうことになる。練習でも、同じミスを繰り返しているのだから。いや、極端に運動神経が悪い人間を無理やり混ぜているのだから、ミスというより必然でしかないわけだが。 「まあ、体育祭なんてのは、運動が好きなお人でだけやった方がええとは思うけどな」  スポーツが得意な富美加ちゃんが気を使ってそんなことを言うのだからよっぽどだ。私は絢美ちゃんと同じ班ではないので練習中の絢美ちゃんの様子は見ていないが、富美加ちゃんは同じ班である。恐らく、私が想像している以上に大変なことになっていたのだろう。 「体育祭の日に、雨降ってくれるよう神さんにお願いするのがええんちゃうかな。一番簡単なものなら、さかさてるてる吊るしとく、とか?」 「ああ、てるてるぼうずって、さかさまに吊るすと雨降り祈願になるんだっけ?」 「せやね、ほんまに効果あるかは知らんけど、そういう説があるのは確かやわ」  私と富美加ちゃんの会話に、やってみようかしら、としょんぼり顔のままの絢美ちゃんが言う。 「まあ、変なおまじないよりよっぽど効果あるかもね。実は、あたしも調べてみたの。さかさてるてるって、大きく作るほど効果があるんですって。でもって、てるてる坊主の中に重いものを入れるほど効果があるって話なの」  それは初耳だった。より重たいもの、と私は頭の中にいろんな道具を思い浮かべる。  てるてるぼうずは、何かを布でくるんで作るものだ。つまり布に収まるサイズでなければいけないので、実は大きさを大きくするというのはなかなか限界があるのである。  ならば、中身の重量だけ増やすということになるだろうか。ボーリングの球のようなものならばそれなりに重たいだろうが。 「でも、あんま重くてデカいてるてる坊主やと、上からつるすのが難しいんとちゃう?」  富美加ちゃんの言葉に、それなのよね、と絢美ちゃんは肩を落とした。 「あたし、絶対の絶対の絶対に、体育祭に出たくないの。中止になってほしいの。何か、さかさてるてるに入れられるくらい重たいものってないかしら。単純に重量じゃなくて、価値があるって意味での“重たいもの”でもいいと思うんだけど……」  私達は、見くびっていた。彼女がその言葉で何を想像していたのかを。  オカルトに傾倒する彼女が考える、より“重いもの”が何であるのかということを。 「うわあ、絢美ちゃん、大きなさかさてるてる作ったね!?」
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