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体育祭の前日。夕方の時点で、空は真っ暗になっていた。教室の窓にたたきつける大粒の雨。そしてその窓際に逆さ向きでつるされた、巨大なてるてるぼうず。絢美ちゃんは私の言葉に、えへへ、と可愛らしく笑って言う。
「うん。考えに考えて、今あたしが考えられる一番重たいものを入れてみたのよ。効果あったみたいね。天気予報でも、一週間は雨が続くって話だから」
「重たいもの?そりゃ、ちょっとずっしりした感じではあったけど、何を入れたの?」
「ふふふ、ないしょ!」
「?」
首を傾げる私。その時ふと、ポケットの中が震えた。私は慌ててスマホを取り出す。実は富美加ちゃんが学校を突然休んでしまったのだ。昨日の夜から家に帰っていないとのことで、親も少し心配しているらしい。少し、であるのは富美加ちゃんが時々ふらっとどこかに遊びにいって、こっそり友達の家に外泊して戻ってくるということを何度か繰り返したことがあるからなのだが(自由奔放な彼女らしいと言えばそうなのだが)。
今回もきっと同じパターンだろう。きっと彼女が返ってきたというお報せに違いない。そう思って、富美加ちゃんの母親から届いたLINEを見た私は、その瞬間凍り付いたのだった。
『富美加、大けがして病院で手術したっていうの……!警察から連絡があって!
だ、誰かに右腕を、切られたんじゃないかって……』
その時。
私はかつて富美加ちゃんが言っていた言葉を思い出したのだった。
彼女が己の右腕をどう解釈していたのかを。そして、その話をした時、私と一緒に絢美ちゃんもいたということを。
「ま、まさか……」
「ちょっと、何するのもみじちゃん!?」
私は慌てて窓枠によじ登り、つるされているさかさてるてるを見た。布はぴったりと貼りついていて剥がせそうになかったが、てるてるぼうずの裏側は白い布からほんの少し中身が透けて見えていることに気付く。
悲鳴は、掠れてまともな音にならなかった。
綿にくるまれた中に、小さく見えるのはーー青い腕時計らしきもの。
「あ、あ、絢美ちゃん!この中身、中身って!」
慌てて叫ぶ私に、絢美ちゃんは不思議そうな顔であっさりと言ったのだった。
「何慌ててるのよ、もみじちゃん。一番重いものっていったら……命より重たいもの、でしょ?」
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