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1年後。
赤ん坊をおぶった私に届く、戦死広報。
空っぽの遺骨箱を私は抱きしめた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
周囲からかけられる言葉に淡々とお礼を言い、頭を下げる。玄関に「誉の家」の木札を掲げ、お国の為に命を落とした事は名誉な事だと讃えられた。
泣くことも許されない。
悲しむことも許されない。
なにが、おめでたいの?
なにが、名誉なの?
なにが、誉なの?
あの人は帰ってこないのに。
あの人とは2度と会えないのに。
私の心は悲鳴をあげた。
大切な人を失ったのに「おめでとう」ってなんなの!?
背中の娘が泣きじゃくる。
少し体を揺らして、あやすもなかなか泣き止まない。
「……父ちゃんね……もう、帰ってこないんだよ。父ちゃんに抱っこしてもらいたかったね……そうだね、うん、悲しいね。辛いね。会いたいね……」
娘に話しかけながら、頬にゆっくり涙が伝う。
1945年8月15日 正午。
ラジオから玉音放送が流れる。
戦争は終わった。
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