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村は町になり、人も増え、高いビルも建ち、すっかり変わってしまった。でも、この川辺は昔のまんま。
今年も真っ赤な彼岸花が綺麗に咲き乱れている。
あと、何回この景色を見れるかね。
「葉見ず花見ず……か」
葉っぱと花が同時に見られないなんて、本当に不思議な花だこと。
あの人は最後まで楽しげに語ってた。
また会いたいねぇ。またあの人の話を聞きたいねぇ。
2人で過ごした時間を思い出すと少し胸が痛くなる。毎年毎年、心のどこかで期待をしていた。もしかして、あの人が彼岸花を見にひょっこり現れるんじゃないか……と。
私は大きくため息をつき、首を横に振りながら、彼岸花をぼんやり眺める。
ひしめき合っている鮮やかな赤色の中、ポツンと白い点がふと目に入った。目を凝らして見るとそれは白い彼岸花。
あの人の言葉がよみがえる。
――赤い彼岸花が群生しているところにさ、白い彼岸花が1輪咲いたら、別れてしまった好きな人にまた会えるんだって……本当かどうかわからないけどね――
私の視界が涙で滲む。
白い……彼岸花……好きな人に会えるのだろうか。
またあなたと会えるのならば、どんな姿でもいい。どんな形でもいい。なんでもいいから、あなたに会いたい。また会いたい。
どんなに強く願っても、彼岸花は何も答えてくれない。景色は何一つ変わりはしない。
やっぱり言い伝えは、ただの言い伝えだね。
肩を落とし、歩き始めた私の後ろから聞こえるガサッという音と人の気配……そして、私を呼ぶ懐かしい声。
「みっちゃん」
私は目を見開き、足を止める。
「みっちゃん」
小刻みに震えた腕を手で押さえながら、ゆっくり、ゆっくり振り返る。
「みっちゃん」
ああ、大変……目から溢れた涙であなたの笑顔が歪んでしまう。
黄昏時。
川辺の彼岸花は秋風に吹かれ、静かに静かに揺れていた。
《了》
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