葉見ず花見ず

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 残暑は厳しく、まだまだ太陽が照りつける季節。  朝夕は少し涼しげな秋風が吹くものの、昼間は汗ばむくらいの暑さ。  暑さ寒さも彼岸まで。  その慣用句を信じるのなら、今日からすごしやすくなるんだけどねぇ。  私はカレンダーを見ながら、ゆっくり団扇(うちわ)を仰ぐ。 「祖母(ばあ)ちゃん、おはぎ!」  同居している孫娘が障子を開け、顔を出した。 「一緒に食べよ! 祖母ちゃん、どっち食べる?」  お皿にのっている、あんこときな粉のおはぎを私に見せながら、首を傾げる。 「祖母ちゃんはどっちでもいいよ。先にお選び」  うーん……と、まるで一世一代の決断をするかの如く、真剣な顔で悩んでいる姿はかわいらしい。 「私、きな粉にする」 「そうかい。じゃあ、祖母ちゃんはあんこをいただこうかね。祖父(じい)ちゃんには供えてくれたのかい?」 「うん! 母さんがお供えしてたよ!」 「じゃあ、いただこうかね」 「いただきまーーす」  美味しそうに食べる孫娘を穏やかな気持ちで眺めながら、おはぎを口に運んだ。 「祖母ちゃんはさ、祖父ちゃんとは恋愛結婚なんでしょ? 母さんから聞いたけど」  半分くらい食べ、お茶を(すす)っていると、さっきまで学校でね、友達がね、と忙しそうにお喋りしていた孫娘がふと思い出した顔をして、興味深げに聞いてくる。私は年甲斐もなくクスクスと笑ってしまった。 「そうだね。祖父ちゃんとは幼馴染でねぇ……」 「へぇぇ。でも、祖父ちゃん、戦争に行っちゃったんでしょ?」 「そうだよ。まぁ、時代が時代だったからね」  幼馴染で初恋だった私の旦那様。  こんな歳になっても、あの日の赤い彼岸花は色褪せない。  昭夫(あきお)さん、見てるかい?  私も孫娘がいるしわしわの婆ちゃんになってしまったよ。  今の私を見て、昭夫さんは気づいてくれるかねぇ……
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