和彦だけが知っている

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 ある日、携帯電話の留守録に伝言が入った。「非通知」ではなく「通知不可能」と表示されている。留守番電話を再生する。通話状態になっているが、声も音も聞こえない。通話は10秒で切れた。  今度は、横浜市の局番から自宅に電話があった。留守録を聞くと、吉田政子の母親だという。  政子というのは、幼稚園のころ隣に住んでいた同級生だ。お互い卒園してから引っ越したし、一度も会っていないから、今どうしているのかは知らない。20年もたった今、いったいどうしたというのだろう。聞くと、政子は病気で入院していたのだが、先日亡くなったのだという。  なぜこの電話番号がわかったのか不思議だったが、この際どうでもよかった。もう告別式は済んでいたが、あいさつに行くことにした。
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