夏暮時に

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 声が聞こえた。嘘でも間違えでもない。待ち望んでいた人の音。  振り返ると彼女が居た。信じられない思いで居ながらも、彼女が生きていた喜びをどう表そうかと思った。だけど、彼女が両手を広げるので悩みにはならない。  僕は彼女を抱きしめた。確かに居る。それだけで心が弾む。 「死んでしまったのかと思った」 「君、泣いてるんだもん。あたしが普通に帰ったのも気が付かないほどに」 「そうなんだ。もうそんなのどうでも良いや」  今日も彼女は笑っていた。そして僕も笑う。あの時の涙みたいに写している。 「もう一度、恋を考えてみようかと思うんだ」  笑顔の彼女からの言葉に僕は静かに言う。 「約束忘れてるかな」  首を横に振り笑う人の居る。 おわり
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