夏暮時に

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 当然のように話す彼女に対して、今度は僕のほうがキョトンとなった。本当に彼女はこんな状況で話を聞くだけなのだろうか。わからない。 「僕の事を見付けて止めようと思ったんじゃないの?」  思ったことを素直に聞いてしまった。それは驚いていたからしょうがないだろう。 「うん。普通に死のうと思ったら、君が居たんだよ。どんな悩みがあって自殺を考えるのかって気になるでしょ?」 「そうだろうか?」  疑問符を浮かべながらも僕はちょっと残念な気も有った。 「なら死ぬのを辞めることを君は考えられる?」  それまでとは違って彼女の言葉はとても神妙になっている。 「解らない」  軽く無いなんて語れたのなら。今の僕には答えられなかった。  さっきまで死ぬつもりだった僕なのに、彼女と少し話しただけで気が晴れている。  けれど、こんなのもひと時の事だと解っている。だから迷うんだ。 「じゃあ、あたしが死のうと思ったことを話すね」  彼女が本当に自殺を止めようと考えているのではない証拠でもある。  そして、僕はこんなに明るい彼女の自殺理由が気になっていた。 「聞かせてくれないか? どうしてこんなに明るい人が死にたいのかを」  すると彼女は一度遠くの夕陽を睨むように見た。 「あたしは、婚約者のことを追うんだ」  なんとなくその一言だけで理由は解った気がした。 「亡くなったの?」 「うん。三か月前にあっけなく事故でね」  もう既に彼女は笑っている。 「三か月も自殺を考えていたの?」 「そうじゃないよ。死んで直ぐは悲しくって他のことを考えられなかった。一か月が過ぎると忘れたみたいに過ごせた。二か月すると彼が居ないことが寂しくなった。そして今、会いたくなったんだ」  彼女がずっと明るかったのはこの世を悲観しての自殺だからじゃない。死の向こうの世界に惹かれているからなのかもしれない。  でもそんなの間違いだ。 「死んでも会えるとは限らないよ」  呟いた僕に彼女は頷く。 「そうだね。それも解ってるんだ。でもね、今のこの世界にあたしが居る理由って解らなくなったんだ」  簡単な言葉は言えない。それでも伝えるのには価値が有るのかもしれない。黙っていてはダメな気がしていた。 「もう一度恋を始められる。貴方には生きるチャンスが有るよ」
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