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「あの、お隣、いいですか?」
「どうぞ。ぼくだけですから」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、彼女はぼくの隣に腰を落ち着けた。リクルート・スーツを着ていて、なんだか新入社員のガイダンスに来たような感じだった。大きなショルダーバッグから、手帳やらノートパソコンやらを引っ張り出しているのを、ぼくは見ていた。ぼくはタブレットをひとつ、持って来ていただけだった。
彼女は少し長めのボブカットで、俯く度に髪が落ちてきて、その都度耳にかける仕種を繰り返していた。その時に、小ぶりだけれど高価そうなピアスをしているのが分かった。例えば、ほっそりとしたプラチナのフレームにダイヤがあしらわれているような、そんなピアスだ。
彼女が動くにつれ、ちょっと甘い香りがぼくの方に漂ってきた。それは彼女がつけている香水なのか、ぼくが勝手にその香りを感知しているのか、その時は分からなかった。
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