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「あの」
ぼくよりも沢山の荷物をあっという間に片づけた彼女が、名刺を手にぼくの方を見ていた。
「ご挨拶させて頂いても、いいですか」
「え、あ、まぁ」 ぼくは手を止め、ジャケットの内ポケットに念の為に入れてきた名刺入れを取り出し、型通り名刺交換をした。
彼女の名前は「御山あさひ」と言った。
「みやま、あさひさん。いいお名前ですね」
「プログラマーさんなんですね。すごい」
彼女はぼくの下手なお世辞など全く聞いていない様子だった。
「まぁプログラミングというか、データ解析屋の方がメインですけど」
名刺というのは、外面の良い肩書きにするものだ。役職名をつけていれば、見積の時にも単価を設定できる。
「すごいなぁ。このセミナーもその繋がりなんですね」
彼女の妄想は広がっているようだった。ぼくは腕時計を見た。このまま帰社するには遅く、帰宅するには早い時間だった。
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