襲われた鉄壁

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 ち。ダーククラウズか?鬱陶しい。  正直慣れてんだよこっちは!  素早く障壁で逃げ道を塞いだ。  あばん?!って声が。  魔法が切れた時、頭を押さえたランディーの姿があった。 「ぐ。こ、この」 「まあ、俺はな?アカデミーの国民になる前は、サクラダーゲートにいたんだ。慣れてんだおめえ等みたいのを捕まえんのは。うお?!」  床を突き破って、デロデロの触手がタルカスを襲った。 「よくも!よくも我が至高の頭脳に衝撃を与えてくれたな?!そもそも捜査権も持たない人間が、何故ここ、研究棟唯一の空き部屋を占有していた我々を見付けたのだ!防音魔法は?!何でかかっていないのだ?!」 「さっき、新鮮なのが一体届いたって?ヒャッホーして業者引き入れたの?博士じゃなかったでしたっけ?」 「しまったあああああああああああああああああ!蟻も堤の一穴的にバレてしまった!まあよい!チョップマン農場に逃げ込んで!新たな研究を続けるとしよう!ゴメスよ!こいつを絞め殺してチョップマン農場に持って来い!私は逃げるとしよおおおおう!さらばだ!」 「あーあ?半分暴走してたんで?凍結保存してたのにね?じゃあすいませんねえ?」  あ?どうする?俺には逮捕権限なんて――ああ!現行犯なら私人逮捕出来るって法律、嬢ちゃんが定めてたよな?!  いずれにせよ襲われてんならよ?連中の死体だっけ?ぶち壊されたって文句言えねえよなあ?  床から顔を出したのは、全身に切れ込みが入った肥満体の死体だった。 「あああ?!誰だ?!めった刺しにされたファルージャ子爵の死体横流ししてたんは?!」  懐かしい話だった。  確か、うちの犬っころが王さんの相談役やってた頃だったな。  クーデター未遂が鎮圧されたあとに、娼館やってた子爵が娼婦に寄ってたかって殺されたのは。  ありゃあおざなりの捜査で、終わったあと関係者に返すって話だったが。  担当者か?誰だあの頃の――。  ああ!あいつだった!馬鹿(ユリアス)の後継者事件の時の!  馬鹿(ユリアス)のコレクション横流しして、アリエールの嬢ちゃん襲って犬に殺されたニコルってプラチナと同類の! 「けっ。今更、過去の事件蒸し返すのかよ」  自身に張った防御障壁に、無数の触手が覆っていた。  無数の触手は、ファルージャ子爵の傷口から生えていた。  恐ろしい圧力で、何年も前にくたばった肥満に障壁が圧壊しかけた時、  携帯が鳴っていた。 「ああ?ああおめえ!どこ行ってた?!」 「我が子に授乳してましたのよ?それより、随分ぎゃああす!な遺体に襲われてますのね?」 「おい!どっから見てんだ?!」 「自宅の上空ですわ。きゃん♡我が子におっぱい噛まれましたわ!」  伯爵んちって、 「――こっから10キロ離れてんだぞ?!」 「ですが見えてますの。転移で行ってもいいんですが、折角ですから、実戦訓練させてくださいまし。最大級の障壁をお張りになって?」  本気か?タルカスは更に強固な障壁を張った。  10キロ離れていた、リトバール伯爵邸上空で、ドレスの肩紐を外した母親が、長男の食欲を満たしながら、襲われている現場を、精密に視認していた。  クレヤボヤンス・スコープ。アリエールの片目は、超精密に全てを観測する魔法機器が装備されていたのだった。  ゆっくり、アリエールは人差し指で、タルカスを襲う死体に照準を合わせていた。  タルカスの障壁の硬度は、流石という他なかった。  流石、鉄壁のシーボルトですわね。  アリエールの魔力は相乗し、そして、遂に放たれた。 「トリプレット・モータル・マイン!」  爆裂魔法をマスターしたアリエールの先が、この変種の爆裂魔法だった。  ある日、俺、ジョナサン・エルネストは、アリエールのベッドに寝っ転がって、寝てるアリエールの綺麗極まりない背中を見ていた。  傷がない背中って、いいなあ♡  手には、アライダー・ファーストエビルの学術書があった。  目を覚ましたアリエールと朝のチュッチュをしながら、 「なあアーちゃん?お前の得意な魔法って、爆裂魔法だろう?あれ飛翔タイプの魔法だったよな?うん、それで、ちょっと考えたんだけどさ。こういうの出来る?」  朝ワンジュブジュブされてますのに、こんな♡ 「や♡やってみますわ♡」  ロズウェルが生まれてからも、旦那様は素敵な♡先生なのには変わりはありませんわね♡  そのあと説明されて、 「こんなの出来っこありませんわああああああああああああああ!」  ってなった。  ですが、丁寧に説明されれば、まあ出来ないってほどでは。  クレヤボヤンス・スコープと併用すれば行けるということが解りましたの。  モータル・マインは、飛翔体が炸裂するタイプが本来の爆裂魔法ですが、これは変わり種の、先生の得意な座標展開型の魔法ですの。  10キロの距離故3重展開になってしまったんですが、まあお任せなさい。  アリエールの発動した魔法は、ピンポイントに、死体の足下に炸裂し、大爆発を起こしていた。タルカス諸共。 「かましわしたわよ?」  アリエールはそう告げ、10キロ先の研究棟では、 「いてて。やってくれたなあ。あの母ちゃんはよ」  爆発で、障壁の中はほどよくシェイクされていた。
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