明けて

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「マリウスはねえ、のちの陛下に取られてしまってねえ」  ああそうか。その後の革命で、マリウスは王女の側にいたんだな。 「まあマリウスはあの性格だから。なのでね?私1人で守らざるを得なかったのだねえ。まあ結構年上でね?マリウスは」 「ああ。北伐って、向こうのガキみてえな連中と遊んでたのは」 「まあ、おそらくシトレ侯爵の謀略だったのではないかと思ってねえ?あれは、まだ当時の陛下が幼い頃、北伐に向かう直前に、マリウスと会話したんだが」  それは、庭園で、マリウスが王女殿下と騎士の誓いの儀を済ませた後のことだった。  士官学校を卒業し、愛しのアリエールとエマニュエルと、幸せに暮らしていたエンポリオが、マリウスに呼び止められたのだった。 「おお!エンプ!いや!若き伯爵閣下!」 「あああ。マリウス。やはり、北に行くのかな?」  エンポリオのリトバール家と、マリウスのガイネウス家は、伯爵家と戦士の家柄で、まあ表向きは身分の違いはあったが、しかしどちらも歴史のある家だった。  何しろ、戦士ガイネウスは、かの魔王を倒した、勇傑の血筋であったからだった。  2代前までは貴族階級でもあった。 「うむ!陛下の命に従うは家臣の務めである!エンプ!貴殿はどうするのだ?!」 「私?まあ、いつも通りであると言わざるを得ないねえ?」  ウィンシュタット王朝を脅かす敵は、潜在的にも相当数いるということが解りきっていたからだった。  そう言った意味での、いつも通りだった。 「そうか!貴殿は唯一!我が剣に届かん真の豪傑であるし!貴殿のような男がいれば!王朝も真に安寧だろうと思う!ではな?!」 「あああ。マリウス、君は、君の父上とは違うね?むろん、爺上とも」  うむ!響くような大声でマリウスは応えた。 「確かに我が父と祖父は、魂にまで脂肪が付いた戦士の面汚しであった!しかし、私は気付いたのだ!真の戦士は!資産の大きい小さいで動くようなものではない!真に弱き者!守るべき者の前で!剣を振るう!ただそれの連続ではないかと!生まれたばかりの我が娘に、情けない姿は見せられんのだ!」  ああ。経済協力連合の呪縛から、解き放たれたのだね?  それは、とても大きいことだったが、それで、王都を離れなければならないのは惜しくもあった。体のいい島流しではないか。とも思った。  マリウスの肩に剣を置きながら、幼い、ミラージュ・デラ・ウィンシュタット殿下は、私を見たのだった。  次はあんたよ。エンプ。すぐ捕まえてやるから。  それをされると弱いねえ。もう、バレてしまいそうだよ全部。  マリウスに、手を握り潰されそうな握手を交わして、マリウスは1人、王都から旅立っていった。 「今思うと、シトレとて、今の流れ全てを把握していた訳ではないんだろうねえ?ザ・レストの影響力かな?動きは早すぎもあったが、遅すぎたということはない。ファナティック・ドーンの蜂起で、おそらく全ては終わっていたと思うんだよ。婿殿の頑張りだけだった。当時読めなかったのは」  ああ。それと魔王とユノ。だな?  あんなのが平然といるとは、誰も思わねえよ。  あれもあの野郎の魅力か。まあおっかねえのを惹きつけてたな。 「婿殿と、陛下の力をもってすれば、「箱」なんかとっくに無意味だったのにねえ?いまになって「箱」を探せと言われて、困ったのだよ。それで、今、婿殿は、どこにいるんだろうね?」  俺が知るかよ。タルカスはそう思った。  ちょうどその時、ヘスティアにボコられたジョナサン・エルネストは、突如目を覚ました。 「――へ?」  横で、上半身裸の娘が、眠っていた。
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