アカデミー警備責任者

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アカデミー警備責任者

 学園国家アカデミー警備責任者、タルカス・シーボルトは、最近デキた奇麗系の彼女の家に、ちょくちょく入り浸っていた。  でもいいのか?シリル、セントラルの王宮スタッフじゃねえのか?    そう言えば、セリヌンされて、最初に押し込められた部屋の主が、丁度ドレスを着替えていたところだった。 「おい!」  まさに、脱いだパンツを履くところだった。 「あら?アカデミーのタルカス様?」 「お、おう。まあそうだ。だがあいつは馬鹿なのか?!ガキ女王もジェイドもよ!」  近衛銃兵長、ジェイド・ブレイバルは、アカデミー建国前は、後輩の王立事件捜査官だった。  よし。タルカスをあそこに、ああ牢じゃなく、あそこだ。アカデミー国王が言ってたな?その通りに。  何か、けったいなことを言っていた。 「折角ですから、しばらくここで過ごされては?タルカス様?」  タルカスにも好みのタイプはあって、初めて同衾したいと思った女は、女の子食いを自称する変態のドロボーだった。  その後、何人か、いわゆるボーイッシュな女と同棲したものの、漏れなく自分に嘘は吐けないっつって、どっかの女のところに消えた。  まあ、シリルはいい女で、自分を執拗に磨いていた。  へえ。魔法で化粧とかするんだな。  夜、どこで寝ようと思っていると、何故かシリルはスッケスケのネグリジェを着てベッドに腰かけて、足を組んでいた。  おい。パンツ見えて、クロッチからはみ出してんぞ。 「ねえ、ここで寝ない?タル君?」  様はどこいった?  まあ、うちの犬っころはあのザマだしよ。  俺だって、独身だし、この状況でよ、据え膳食って何か問題あんのか?  ベッドに引っ張り込まれた。  あん?!力強えな?!こいつはうぷ?!  顔面を、クロッチでゴシゴシされた。  おめえは校長か何かか?!犬っころかこれは?!  うほう!頬張りやがった!どこまで変態か?!  顔面に押し付けられたそこの匂いは、どこまでもメス臭が凄かった。  避妊もせずに朝までやりまくった警備責任者は、不意に身を起こしたシリルの股間を見て、 「ああ!あああ!あああああああああ!おめえええええええええええ!」  朝起きたら、馬の首が転がってるのを見たっぽい悲鳴を上げた。 「え?どうしたの?タル君?」  もう、股間のものは姿を消していた。  大体理解した。こいつが異様に美容に気を遣う理由が。  マスカレードってのは、結構維持が大変なんだろうな。  特に全身、しかも、性別まで変えるとなると凄え大変なんだろうな。  まあいいや。このまま、こいつの家で世話になるか。  実際、物凄い懊悩があった。  まあ、あいつは女なんだろうな。突っ込んだ感触に違和感はねえし。  ただなあ、兄貴(クレア)が女装の変態男で、弟が男なのにマスカレードで女体化した女?  いいよ。あいつが女として生きてくってんならよ。  今、うちの犬監禁してる、あの女王さんが孕みゃあ終わりなんだろ?  あれ?フランチェスカがキレてなかったっけ?  ああ、ってこたあ、ジョナサン、死ぬな。  結婚したって変わらねえんだもんよ。関係性。  初めてあいつ等が口利いたなあ覚えてる。  おっぱいうっかり触っちまって、殴り飛ばされたんだよな。  フランチェスカの奴も素直じゃねえからなあ。  生徒ん時にやっちまえって、思ってたよ。  で?ガキが出来て、魔王は懐かれるしよ、訳が解んない内に、あの野郎王になっちまったなあ。  タルカス、アカデミーで警備責任者やってくんない?ジェイドはミラージュに盗られちまったんだ。ユニエスと子供ごと。  まあいいや。国民になってやらあ。  それで、自分は今ここで男か女かも不明な生き物のヒモみたいな生活をしている。  それから、約2週間経って、ミラージュ女王の奴が妊娠したと騒ぎになっていて、アカデミーとの転移方陣が再使用可能になり、学中(アカデミーセントラル)経済協定って訳の解らん協定まで結ばれていた。  俺を忘れやがったなああああああああああ!あいつ等あああああああああああ!!!  これで、グレてやるとか思ったことがその程度でしかなく、だったら、シリルと所帯でも持ってやるってレベルで業務をサボることにした。    そうこうしている内に、ジョナサンとフランチェスカの離婚騒動が起きた。  何やってんだ?あいつ等。  ちょいと調べたら(古巣の捜査室はウェルカムだった)、どうやらリトバールの令嬢一家が関わっていることが解った。  だったらいいや。シリルのベッドにモゾモゾ入ることにした。  同時に、クロムウェル首相に呼び出されたので会いに行くことにした。  ご機嫌よう。国には慣れたのかね?  王都生まれだ放っとけ。 「ああ、君は学王閣下の御学友だったな?」  けっ。学王って。まあ犬王よりマシか。 「アカデミー側から見て、この国をどう思うかね?」 「何も変わってねえな。あの嬢ちゃんがブイブイいわしてるだけじゃねえか」  ああ陛下だったな。 「確かに。貴族制は消失し、議会政治に変わり、確かに、陛下の威はいよいよ強くなってきている。私も元貴族であるし、リトバール元伯爵の事業もまあ安泰だ。中にはそういう者も少なからずいる。ああ、君は元子爵家だったな?」 「とっくにおん出てもう関係ねえよ。あんたの憲法読み込んでた犬っころの部下だぜ、俺は」  ああそうだった。少し嬉しそうに首相は言った。 「真面目に読んでいる人間が、他国にいるのは嬉しいものだ。一応、元々法律家なのでね?」 「他国?アカデミーだって、厳密に言やあセントラル連邦じゃねえのか?伝説都市アガルタとか、何年か前に地震で消えたセント・トーマスとかと同じじゃねえか」  そう。ジョナサンは確かにアカデミーの王ではあるが、セントラルの尺度で言えば、ただの地方辺境伯でしかなかった。  でも王嗣(次王)の父親なんだよな。どうやら双子の。  流石は元捜査官といった、見事な聴覚(耳のよさ)だった。  まだ、王嗣については何の情報も公表されていなかった。 「確かに、学王閣下は地方辺境伯でしかないし、君に至っては田舎の地方官吏でしかない。そんな奴は放っておけと言うのが、シャドウキャビネットが出した結論だ。だが、私はそれに異を唱えたいのだ。うちの絶対的指針にして威たる女王陛下をガキだの嬢ちゃんだのと言って、未だに監獄に行っていない人類は、君と閣下くらいだ。これは個人的意見なのだが、陛下はそういう風に言ってくれる相手を、コッソリ求めているような気がする」  タルカスにとって、女王はただの妊娠したガキに過ぎない。今更神格化して奉るような真似は出来ない。 「ところで、君、ウィンシュタット王朝を終焉に導く、「箱」というものを知っているのかね?」  噂だけは聞いていた。捜査官だった頃から。 「陛下は、箱を気まぐれにお求めなのだが、どうやらその騒動に、学王閣下が関わっているようであるのだが」 「ああ。だったら放っておきゃあいいんじゃねえか?あいつだぜ?あいつが関わりゃ絶対に解決すんだ」 「確かに。それで、これを見てもらいたい」  テーブルの上に、箱が置かれていた。 「あああ。もう見付けてんじゃねえか」 「うむ。エンプ、エンポリオ・リトバール運輸相が持ってきたものだ。中身を見て欲しい」  うん?うおう。  箱を開いて、少し言葉に詰まった。  もう死臭はない。だが、これは誰の首なんだ? 「厳重に防腐処理されている。眼球は義眼に、脳髄には粘土が入っている。ウィンシュタット王朝の開祖、フリードリヒ・トエル・シュバルツェス・ウィンシュタット陛下の御首(みしるし)だ。保存していたのは、シトレ侯爵の祖先である、アネモネという奴隷女だった」 「確か、稀代の賢王フリードリヒか。どうする?焼いちまわないのか?」  こういうものはさっさと焼くに限る。  焼き損なって、あとでえらい目に遭った記憶があった。 「いや、焼くまでもないものだ。今の陛下のみ世には何の意味もないものだ。それで少し、王朝の過去の暗部を聞かせよう」  クロムウェルの話は、そこそこ長かった。  要するに、分別のないうちの犬っころみたいな奴が君臨しちまったセントラルみたいな話だった。 「あれか?前の王様の頃の有力貴族が、みんなそんなだったらよ?ウィンシュタット王朝の意義みてえなもんが、失われねえのか?」  うむ。まさに。そう言わんばかりに頷いて、首相は唸った。 「合わせて、昨今、妙な動きが元貴族達の間であるようなのだ。真面目な話、今いる議員達が全て議席を放り出した時、セントラルの立憲議会制が崩壊する。既にその一派の名前もハッキリしている。ザ・レストだそうだ」  示された、1万ループ金貨に彫られたジョナサンの顔が削られていた。 「けっ。うちの犬っころに喧嘩売りやがったな?そいつ等はもう終わりだ」 「ついでに、メンバーの1人が、先ほどリトバール嬢を襲った。ビスキー・シーボルト。そう名乗ったそうだ」  ――あん?  タルカスは、今度こそ言葉を失った。
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