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 道へと入りこんでいくことは当然難しいことではなかった。古びたポストを超え、ただ一本の線をなぞるようにして歩くだけだ。  問題はどこがその正体不明の道の入り口であるかという点だった。何歩進んだ時点からが未知なのか、僕にははっきりと断言できなかった。それでいて、気が付いた時にはこの道は僕をその内部に取り込み、元いた通学路からすっかり隔離してしまう。そんな感覚を僕にもたらす魔力がこの道にはあった。  つまり、この道への入り口を規定することがある種、僕にとって、強烈な魔力から逃げるための出口を決めるということに繋がるのだと僕は考えをまとめた。  僕は通学用鞄から一枚のプリントを取り出す。非日常を区切るものは日常的なものであるのが適切だと、そう思った。授業参観の日程の書かれたそのプリントを道の隅に置き、それを筆箱で固定する。僕はこの道の入り口を、そして出口を、その地点に決定することにした。  プリントと筆箱で作られた扉の設置は予想以上の効果を僕の心理に及ぼしてくれた。先程まで流れていた空気の段差のようなものがその扉によってはっきりと区分され、かえってその区分が、二つの世界を結んだ。  ようやく準備が整ったことを確認し、僕は道を奥に向かって数歩進んだ。人通りの一切ないその道で、僕の足音だけが聞こえていた。平らとは言い難いそのコンクリートの上でスニーカーのソールがざりざりと音を立てる。  未だ変わらず吹く風が足元をすくい、僕はそれを支えるようにゆっくりと、次の足に重さを移した。
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