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次に僕の前に現れたのは男だった。道の先の角から突然現れ、僕の行く手を阻むようにして眼前に立つ。
中年程の年齢と予測できるが、その顔の作りは妙に子供然としていて、正確な年代まで判別するのは困難である。歪な自尊心と、強すぎる猜疑心を示すように、丸く小さい目がぎょろぎょろと動いていた。
男は僕の足元から頭までを、あら捜しするかのように見回し、言った。
「ここは俺の土地だ」
明らかに公道であるこの道の、所有者を名乗るこの男は、出ていけと言わんばかりに、顎を僕のもといた方向に突き出す。
「どこからがあなたの土地なんですか」
僕の問いを男は攻撃と捉えたらしく、目の陰を更に深めた。
「この道は全部俺のものだ」
「この道って、じゃあどこからが、この道なんですか」
僕にとってこの道は、あの筆箱とプリントで作った扉をひとつの境としている。この男にとっての道を規定するルールは何なのか、純粋に気になった。
「全部だ!」
男は震えながら白い唾を飛ばし、怒鳴った。その動物的な行動は、僕にこの男を恐怖の対象として認識させるのに十分な効用を持っていた。しかしそれでもなお、僕の中で恐怖を上回るだけの怒りが湧いていた。
「全部ってなんですか。ちゃんと道には始まりと終わりがあるべきです」
体が震えていた。その興奮は僕の呼吸を浅くし、薄い酸素だけを脳に届ける。自分自身の中に潜んでいたその攻撃性の熱は外に漏れ出ることなく僕の内に留まっていた。
男は、僕の意外な反抗に対しひどく驚いたようで、そのずんぐりとした、だらしない芋虫のような肉体を無理矢理に縮めていた。
「生意気なガキ、死んじまえ」
喉に痰を絡ませながらその男はぼそぼそといくつかの呪いを吐き捨て、やや小走りで僕の横を通り過ぎていった。
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