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 気が付くと僕は扉の前まで戻ってきていた。プリントと筆箱で作った扉。少しだけ砂が積もり、それらを回収する手に滲む汗と混ざって、ざらざらとした感覚を与える。  懐かしさすら覚える、その感覚が思い出させるこの旅の開始は、とはいえわずか一時間前ほどのことだった。僕が追いかけたあの猫は、もはや僕の目の届かないところまで行ってしまった。  町のスピーカーから帰宅時間を知らせるチャイムが鳴る。空に寝転ぶ夕日は、人や建物に影を落とし、かつて僕が歩いて帰ったその道とは全く違う表情を見せていた。  僕の隣に立つポストはやけに背が小さく見えた。古びているように見えていたそのポストの禿げた塗装部分もまた夕日に照らされ、その赤さを取り戻している。  道を振り返るとそこには僕の道があった。夕刻の明かりに照らされてなお、それは僕の道としてそこにあった。
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