スリーウェイ

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 目を覚ますと見知らぬ場所に一人でいた。  辺りは薄暗い。    ここはどこだろうか?  どうやってここまで来たのだろうか?    思い出そうとしたが、頭の中に霧がかかったように何も思い浮かばなかった。    近頃、記憶が曖昧になってきている。    もう長い事この場所にいるような気さえしてくる。    もう一度目を瞑って寝てしまおうかと思ったが、前に進まなきゃいけない気がして尻の辺りがソワソワしてくる。  体の向きを整えてから、前へとゆっくり進み始める。  しばらく道を進んでみたが辺りの景色にこれと言った変化は無い、強いて言うなら徐々に道幅が狭くなってきている気がした。    元来た道に引き返そうかとも考えたが、不安よりも好奇心が上回り、また前へと進み始める。    この道の先に何があるのか見たくなったのだ。    ふと、昔の記憶が蘇る。    俺の人生はいつも行き当たりばったりだった。  先の見えない今の状況と良く似ていた。  若い頃に思いつきで起業して借金を背負ったり、一目惚れした女性にその日のうちにプロポーズをして結婚したり、借金の返済に追われている最中に娘が生まれたり、波瀾万丈な人生だった。    妻には大変な苦労を掛けたと思う。    仕事の手伝いと子育ての両立は大変だっただろう。  貧乏で食べる事すらやっとの状況でも、何とか家計をやり繰りして支えてくれた。    どんな時でも常にポジティブで笑顔が絶えない女性だった。    彼女と結婚していなければ、きっとどこかで道を踏み外していただろう。  今でも心の底から感謝している。    苦しい生活は長く続いたが、それでも人生の折り返しに入る頃には、何とか事業が波に乗り比較的金銭に余裕を持った生活が送れるようになっていた。    これからは楽な道を進める。  そう安心していたが、人生はそう上手くいかないものだ。    健康だけが取り柄だった俺の体に、何の前触れも無く病気が見つかった。    人生山あり谷ありとは言うものの流石に谷が深すぎやしないかと天を仰いだものだ。    でも、何とか間に合って良かった。    初めて抱いた孫は希望そのものだった、もう思い残す事は何も無かった。    泣いている家族の顔が忘れられない。 「最後くらい笑って欲しい」なんて我儘を言ったもんだから、みんな困った顔をしていた。    でも、次第に泣きながら笑っている、まるでお天気雨みたいな顔が見られた。    蛍光灯の光に反射してキラキラと溢れ落ちる涙の雨の中で、太陽みたいな笑顔がのぞいていた。  綺麗だった。    また、どこかであんな光景を見られたらいいな。    そんな昔の事を思い返しているうちに、道が急に狭くなってきた。  全身が押し潰され、頭に激しい痛みが走る。    痛みと共に幸せだった記憶がどんどん消えていく。  勿体ない気がしたが、前に進む為には仕方の無い事だと理解が出来た。    ただ、ただ、前に進んで行く。    眩しい光が見えてきた、どうやら出口のようだ。    泣きながら笑っている人の顔が見えた。    肺いっぱいに息を吸い込み、大声で泣いた。
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