0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
薫
薫は半年前から複合型テナントビルのレストランフロアに入っているパスタ屋のコックとして働いている。
平日の夜は、21時を過ぎると客はほとんどなく、21時30分のラストオーダーを過ぎると閉店作業を始めるため、閉店時間の22時にはタイムカードを押すことができ、残業はほとんどない。
仕事はとても充実してるが、先輩コックの作るまかないのパスタが美味しすぎるせいで、最近、体型と体重が気になってきている。
支給されている制服もかなりピチピチで、仕事中にいつ「ビリッ」という音が聞こえても不思議ではない。
先月から一念発起して、同じテナントビルに入っているフィットネスクラブに通い始めたが、まだ、その効果は体型には現れていない。
同じ敷地内にあるフィットネスクラブなので、22時10分にはだいたいチェックインできる。
着替えを済ませて、ランニングマシンやエアロバイクなどの有酸素運動を中心に一時間ほど汗を流した後、さらに、お風呂とサウナでもう一汗流し、休憩ルームでゆっくり水分補給をしてから23時50分にチェックアウトする。
そこから、徒歩で地下鉄の駅に向かい、0時07分発の電車に乗り0時23分に自宅の最寄り駅到着する。
駅を出るとすぐ横にコンビニがあり、デザートやおつまみ、飲み物や夜食を買いに寄ってしまう。
これも、体重が減らない要因なのだろうが、コンビニは薫をなかなか手離してくれない。
コンビニの袋とフィットネスクラブの着替えなどが入った鞄を提げて自宅に向かう。
これが先月から始まった薫の平日の夜のルーティンだ。
そんな折、コンビニ前の交差点で、久しぶりに黒ジャージの男とすれ違った。
翌日も、そして、その翌日も同じ交差点ですれ違った。
身なりから、ウォーキングであることは簡単に推測できる。
男の日課と薫の生活パターンがこの交差点で交わるという縁。
そう思っているのは薫の方だけなのだろうか?
最初のコメントを投稿しよう!