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藍川
ジャージの男は藍川と名乗った。
「花と色彩の館」内にあるイタリアンレストランのスーシェフ(副料理長)であった。
閉店後、キッチンの清掃や翌日の準備を済ませ、スタッフ全員をレストラン専用の出入口から送り出したのちに、すべてのセキュリティをオンにして、藍川はこの正門横にある小さな通用口から帰宅していた。
ジャージ姿なのは別にウォーキングをしていたわけではなく、自宅がすぐ近くであることと、仕事着はコックコートに着替えるため、楽な格好で通勤していたためとのこと。
また、一日中、立ち仕事のため、体重の重い藍川は腰や膝に優しいウォーキングシューズを普段から愛用していた。
半年前に薫とすれ違ったことは覚えていない。
しかし、先月からあの交差点ですれ違っていることは認識していた。
しかも、驚いたことに、藍川も薫のことをタイプとして認識しており、あの時間の交差点ですれ違うことを楽しみにしていたとのこと。
そして、この日は閉店作業に少し手間取りいつもの時間に間に合わないと思って急いで通用口から飛び出してきた。
そうしたら、まさかそこに薫が・・・。
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