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道の怪
ここは木々に囲まれた神社。
辺りは濃霧が立ち込めており、3メートル先ですらろくに見えない。
お互いの影を頼りに、賽銭箱の前に5人が集まった。
一人は僧侶。立派な錫杖を持つ。
一人は痩せぎすの男。刑務官の格好。
一人はベストを着た男。漁師の風貌。
一人は細身の女。白衣を着ている。
一人は青年。車掌の格好。
僧侶を除く4人は、どうしてここに居るのかが分からず、困惑している様子だった。
何人かが鳥居の外、つまり濃霧の中へと進むが、その矢先に戻ってくる。どうやっても神社へ戻ってきてしまう。
どうやらここに閉じ込められたようだ。
なんだここは、とか、どうしてこんなところに?、と困惑しながら話を始める。
ただ一人、落ち着き払った態度の僧侶。
透き通った声で言う。
「これは神隠し」
━━シャン、と錫杖が鳴る。
4人は驚き、錫杖の方、つまり僧侶を注目する。
僧侶は続ける。
「ここは怪の創った異世界。魔境とも呼ばれますが……そうですね、言うなればここは檻です」
4人は僧侶へ目を向ける。
檻?、と刑務官の男。
僧侶は答える。
「怪が食料を保存するための檻。皆手を引かれてここへ連れてこられたのです」
何を根拠に、と漁師の男。
僧侶は続ける。
「ここより出れないことが何よりの証拠。このままでは私も含め、ここに居る全員が食われてしまうでしょう」
そんな馬鹿な、と白衣の女。
僧侶は続ける。
「出れないような場所には簡単には入れもないもの。ならば同じ道を通ってきたに違いない」
同じ道?、と車掌の青年は聞く。
僧侶は答える。
「鳥居の前に道がある。あそこから来たのでしょう。林の中へ進んでみるのもいいですが……まあ、経験上、ろくなことがない」
僧侶を除く4人は辺りの木々へと目をやる。
濃霧ですぐ先すら見えない。
「「「「……。」」」」
4人はゴクリとツバを飲む。
僧侶は言う。
「ここで会ったのも何かの縁。少し御話をしませんか?」
シャン、と僧侶は錫杖を鳴らす。
「その折、この“道の怪”を暴くことができたなら、私が退治して御覧にいれましょう」
━━シャン。
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