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 気づけば上空から何かを俯瞰していた。  眼下に広がっていたのはいろんな人たちの意識だった。  まじない師と呼ばれながらもなけなしの専門知識を駆使して人々の治療に当たっていた女の意識。  疫病が流行った村でたくさんの病人を相手に掛けずりまわった挙句自らも感染して命を落とした若い医師の意識。  まだ人権という概念が生み出されていなかった頃、劣悪な環境の刑務所で過ごす服役者らのために黙々と医療活動を行い続けた男の意識。  火山の爆発や台風や津波などの天災。戦争や歪んだ宗教支配や交通事故などの人災。  あらゆる暴力に対して自身の無力さに歯噛みしながらも、その場所に根を下ろして踏ん張り続けた人たち。  だれかの命を、救える命があるならただ1人でも救おうとして、ひたむきに働きつづけた無数の先人たちの意識がそこにあった。  彼らは私たち皆が持つ共通の記憶。そしてその記憶と遺志を、私たちはこれからつないでいかなければならない。  一筋の道がその向こう側へ続いているのが見えた。 「ああ、やっぱりおねえさんは向こう側に戻るんだね」  耳元で声がして振り向くと、いつのまに現れたのか、さっきの子どもが笑っていた。 「思い出したいことを、思い出したんでしょう?」 「ええ」  私は頷いた。 「私はきみを助けたかったの。私たちのもとにきみを届けてくれたあの男の人の願いと、きみ自身と、それから私たち自身の願いのために」  私たち。そうだ。私たちだ。  私たちはチームで活動している。 「ぼくは目の前で家族を殺された」  静かな声で子どもは言った。 「思い出したらつらい記憶だから、思い出さないまま眠っていられたらいいのにと思っていたけれど、おねえさん、結局あなたに引きずられてぼくも思い出してしまったよ」 「心残りがたくさんあるの。わたしはあなたを連れて帰る」  決意を込めて私は子どもに手を差し伸べた。  どこか遠くで私たちを呼ぶ声がした。
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