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19時半。閉店時間が迫った店内に客の足音はなく、聞こえるのは圭の啜り泣きだけ。
結局、圭は最後まで臆病者だった。
慰める資格が無いなんて言い訳して、本当は自分の力で南さんを幸せにする自信が無かっただけ。好意を伝えることもできないまま、磯貝さんに全て押し付けて逃げてしまった。
そんな自分が情けなくて涙が止まらない。
次の雨の日、自分は今まで通り作り物でない笑顔で南さんと話せるだろうか? 正直、自信は無い。
あんなに好きだった雨が嫌いにそうだと、嗚咽混じりの溜息を吐いた。
ヒタ、ヒタという足音が聞こえた。客は全員帰ったと思っていた圭は驚き、慌てて居住まいを正す。
足音は圭の目の前で止まった。
「す、すみません。誰もいないと思って、お見苦しいところを……何か御用でしょうか?」
言った後で気付く。この足音は一度も本を買ってくれたことのない、声も知らない常連さんだ。
一体何の用だろう?
「アンタ、損な性格だね。そんなんじゃ幸せになれないよ」
衝撃的な声だった。
キツい物言いとは対照的な、柔らかすぎる声色。それだけで今まで出会った誰よりも優しく、繊細な人物であると確信した。
いや、そんなことより。
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