6月4日、大雨

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「女性、だったんですね」 「あら失礼ね。そんなに重そうな足音だった?」 「い、いえ!いつも男性誌コーナーにいらしたので、つい……」 「ふん、まぁいいけど」  不機嫌そうな口ぶりなのに妙に弾んだ声。不思議なギャップに、圭はどう話すべきか戸惑う。 「男性誌がお好きなんですか?」 「いや、雑誌には興味無いよ」 「え、じゃあどうしていつもあのコーナーに?」 「ああ、それはあそこが一番レジに近いから」  意味がわからず、圭は首を捻る。 「いつも見てた、アンタとあの女の子が話すとこ。アンタ、あの子に惚れてるんでしょ?」  見られていたのかと羞恥で顔が熱くなる。 「好きなくせに真面目に恋愛相談なんか乗っちゃって。やっとチャンスが来たと思ったら、今度はキューピッド気取り。ほんと、見ててイライラしたわ」 「……本当に全部見てらしたんですね」 「そりゃ、私も雨の日のたびここに来てるもの。アンタはあの子に夢中で気付いてなかっただろうけど」  驚きのあまり言葉が出なかった。確かに彼女の言う通り、南さんにばかり気を取られ彼女の来店パターンには気が付いていなかったから。 「えっと、どうして本を買わないのに本屋に? いや、全然構わないんですけど」 「さぁ。なんでだと思う?」  彼女の声からわずかに色気に似たものが漂った。  それはまるで雌を誘う雄鳥のさえずりのように圭の鼓膜を優しく揺らす。  もしかして。いや、でも。  あまりに都合の良い考えが浮かび、慌てて打ち消す。
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