5月12日、雨

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「そういえば聞いてくださいよ! 昨日のサークルの話なんですけど」  南さんの声がにわかに色を帯びる。 「武田先輩と初めてダブルスしたんです! 先輩ったら私のミスを全部カバーしてくれて、私がたまたま良いプレーすると『ナイスショット!』って褒めてくれて」  チクリ、と胸が痛む。  彼女が同じテニスサークルの武田という先輩に惚れていることは知っている。  もちろん最初は落ち込んだが、彼女が幸せならそれでいいと自分に言い聞かせ諦める道を選んだ。  それは彼女のためであり、自分のためでもあった。  目の見えない人間と一緒になれば何かと彼女の負担は増えるだろう。圭は彼女に苦労をしてほしくなかった。  そして何より、そうなった時彼女に嫌われることが怖かった。彼女は障害が原因で人を嫌うような人ではないと思いつつも、障害者の家族の大変さは圭自身よく知っていたから。  ならばいっそ、今のまま友達のような関係でいい。  たとえ会うたび想い人の話を聞かされようとも。 「先輩と上手くいったら教えてね! お祝いしたいからさ」  圭の声に含まれる微量の嫉妬に南さんは気が付かない。彼女が自分ほど耳が良くなくてよかった。 「優しいんですね。私も、本村さんに素敵な彼女ができるよう祈ってます!」  君が良いんだ、なんて言えるはずもなく。圭は自身の醜さにウンザリしつつ、軽やかに去りゆく足音をただ黙って聞いていた。
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