6月3日、小雨

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「ねぇ麗子ちゃんまだ? 早く二人きりになりたいな」  武田の声を聞いた瞬間、背筋が凍った。  彼は、武田は南さんを見ちゃいない。今奴の心にあるのは下劣な欲望だけ。表面的には甘い求愛のような言葉を通し、そのことが嫌になる程伝わった。  怒りのあまり言葉が出ない。心臓を掻き毟りなくなるほど苦しい。  そして芽生えたのは「助けなきゃ」という使命感。この男の本性を知った以上、みすみす彼女を渡すわけにはいかない。  だがどうやって? 「この男は南さんの身体目当てです」と武田と初対面の圭が言ったとして、南さんは信じてくれるか? いや、信じるはずがない。  そもそも圭の見立てが必ずしも当たっているとは限らない。もし奴が真剣に彼女に惚れていた場合、圭の行為はただ好きな人の幸せを邪魔するだけのものになってしまう。  武田は本気なのか、せめてそれだけ確認せねば。  本人に聞く? そんなの、口では何とでも言えてしまう。  奴が尻尾を出すまで引き留める? いや、そんな権利はただの知人の圭にあるはずもない。  どうすればいい? どうすれば……。 「それじゃ、また次の雨の日に」  南さんが言う。解決策は未だ思い付かぬまま、「行かないで」の一言も出てこない。彼女の足音が武田の足音とくんずほぐれつしながら遠ざかっていく。  本当は縋りつきたいのにそうできない圭は、やはり生粋の臆病者だった。
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