22人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
頭がぼんやりしているチーミンは、やわらかい何かに抱かれていた。
知らない誰かに頭を撫でられているらしいのに、不信感より心地よさが先に立つ。
まどろみの中、意識は過去にさかのぼっていた。
チーミンが織科に登第し、浮槎の織官となったのは、齢八のころ。
体調に大きく左右される、気むずかしい織機たちと格闘すること十年。部下もでき、社会的信用の高まりによって大きな買物もできるようになり、生家は、もう大概にしたら思うほどに富んだ。
ようやく人生が上向いてきたところだったのに。
「はー……、私、命数が尽きちゃったのかぁー……」
自分の寝言で、目が覚めた。知らぬ間に、柔らかい手の感覚は消えていた。
なお、命数が尽きちゃってる状況証拠は、完璧に揃っている。
まず、横たわったチーミンが見上げている天。
天頂の部分で青と黒の二色に塗り分けられていた。天の半分が昼で、もう半分が夜。昼夜が同時存在している。しかも夜の部分は、見たことのないほど深い黒色をしている。
次に、チーミンの横たわるすぐ脇には、河がとうとうと流れている。雲が流れる河が。
その雲河を挟んでチーミンのいる側には銀の宮殿、河の向こうには金の宮殿がそびえている。なんなら宮殿は、地面からちょっと浮かんでいる。
十中八九、ここは異界だ。
最初のコメントを投稿しよう!