1章 ようこそ天上界

11/35
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
「こんなことになるなら、私室くらい片づけておけばよかったー」 今日が人生の終末日とは夢にも思わなかった。チーミンの王宮での住まいは、衣類からいかがわしい本まで、もろもろとっちらかったままだ。 「たぶんこの雲の河から流されてきたんですよねー、私……。だったら、この河、逆に泳いだら、浮槎へ戻れるんじゃ……?」 そう思い立ち、雲の河へ飛び込もうとしたとたん。 「ガシャガシャ! ガシャ! ガシャガシャ!」 一気に目が覚めるような。この得体の知れない事態を現実と認識せざるを得ないような。喧しい鳴き声が雲河に響いた。 「今度は何なのー?」 チーミンは連続する怪奇現象に眉を痙攣させた。 鳥だ。大きさはカラスぐらい。全体が黒く、おなかが白い。 チーミンは目を眇めて、鳥をよく観察した。 「……乾鵲(かささぎ)……?」 たしかこの鳥は、国祖・織女神が天河から地海に降りたもうたとき、橋となって降臨を助けたという言い伝えがある。浮槎の国鳥だったような。 鳥は同じように二三度さえずると、ようやく何かに気づいたように、 「おっと、鳥語じゃ通じないのを忘れてた!」 と、あろうことかチーミンにも聞き取れる言語に変換してくれた。 「えーと、姑娘(おじょうさん)、名前は、チーミン――で問題ない?」 「人違いです」 「いいね最高! 警戒心があるのも好感が持てる! チーミン、あんたは選ばれた!」 「――鳥がしゃべった!」 ようやく、チーミンは状況を察した。 「しかも、さっき私を海へ突き落した鳥だ!」
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!