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「こんなことになるなら、私室くらい片づけておけばよかったー」
今日が人生の終末日とは夢にも思わなかった。チーミンの王宮での住まいは、衣類からいかがわしい本まで、もろもろとっちらかったままだ。
「たぶんこの雲の河から流されてきたんですよねー、私……。だったら、この河、逆に泳いだら、浮槎へ戻れるんじゃ……?」
そう思い立ち、雲の河へ飛び込もうとしたとたん。
「ガシャガシャ! ガシャ! ガシャガシャ!」
一気に目が覚めるような。この得体の知れない事態を現実と認識せざるを得ないような。喧しい鳴き声が雲河に響いた。
「今度は何なのー?」
チーミンは連続する怪奇現象に眉を痙攣させた。
鳥だ。大きさはカラスぐらい。全体が黒く、おなかが白い。
チーミンは目を眇めて、鳥をよく観察した。
「……乾鵲……?」
たしかこの鳥は、国祖・織女神が天河から地海に降りたもうたとき、橋となって降臨を助けたという言い伝えがある。浮槎の国鳥だったような。
鳥は同じように二三度さえずると、ようやく何かに気づいたように、
「おっと、鳥語じゃ通じないのを忘れてた!」
と、あろうことかチーミンにも聞き取れる言語に変換してくれた。
「えーと、姑娘、名前は、チーミン――で問題ない?」
「人違いです」
「いいね最高! 警戒心があるのも好感が持てる! チーミン、あんたは選ばれた!」
「――鳥がしゃべった!」
ようやく、チーミンは状況を察した。
「しかも、さっき私を海へ突き落した鳥だ!」
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