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「何ですかこれ?」
湯で海水を洗い流したチーミンは、おそるおそる自分の裾をつまみあげていた。
世にも恐ろしい物を見る目で。
「要素をそぎ落とすのも一種のおしゃれですけどー、おしゃれをするのにおしゃれをそぎ落としたって話は初耳なんですけど。わが浮槎は一日に七十度衣装替えをしたとされる最強衣装家・織女神を最高神に戴く、誉れ高きおしゃれ国家ですよ、その織官である私がこんな姿で道を歩いたら、その日一日、私の部署、反省会で潰れるんですけどー」
浮槎はおしゃれの国であり、織官のチーミンは文化を牽引する誇り高き職業人だ。入浴後に支給された服のあまりのダサさが、チーミンを多弁にしていた。
黄色の円領。胸元の刺繍は、乾鵲が橋をかけているところを図案にしたものらしいが、始末が拙劣で、はみ出た糸を引っ張ると、ほつれて姿を失った。
肌ざわりは、例えるなら筋だけを残して乾かした糸瓜。肌とこすれるたびに潤いをこそげ落とす。丈は膝下までとだらしなく長い。手首のあたりは絞れるようになっており、えもいわれぬ野暮ったさ。その下の袴子までが、絞りがついており累倍にダサい。
だが、ユゥジンはチーミンの苦情に、まったく動じた様子がない。
「多様性多様性。おしゃれの概念は、世界によって違うんだよ。それにしてもよく似合ってる、その作業着」
「いま作業着って言……」
「機能美、機能美」
ユゥジンは、くびりたいほどかわいく小首をかしげる。
「だってチーミンはもうわかってる。この月廠が、何をするための施設か」
確信めいたユゥジンの発言から、チーミンは曖昧に目をそらした。
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