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序章
チーミンは男に唇を奪われていた。
男の唇は、はじめは挑発するように軽やかに触れてきて。煽るように唇の輪郭をなぞり。チーミンの心身を蠱惑的に誘ってくる。
しかもチーミンの唇を奪った男は、後れ毛がむやみに色っぽい、宮廷人にも珍しいほどの美丈夫で。
やがて優しく体を離すと、男はこう言った。
「チーミンに足りてないのは真実の愛」
こうも言った。
「これからチーミンを、吾の可愛い小鳥、と呼ぶことにしよう!」
自分が鳥のくせに何言ってんだ、この男。
しかも私、初めてだったのに。
だが、初めてを鳥に奪われて膝をガクつかせているなんて、死んでも悟られてはいけない。とチーミンは膝に力を入れながら思う。
なぜならチーミンは、世界に冠たる服飾国家・浮槎の高級官僚で、しかも今や、浮槎の存亡を握るハメになっているのだから。
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