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「世界が、ほんの一刻前に始まったと考えたことは? 世界の中の人物たちは、誰もその事実に気づかない。一刻前以前の記憶もあるし、古典を当たればもっと過去にだって遡れるからだ。しかしそれは、世界の外から観察したとき、真実じゃない」
「よく意味が……」
「はじめから千年分の歴史の記憶を持った星を、その住人を、日月廠は作ることができる。浮槎という世界は、チーミンという住人は、約一年前、ここ日月廠によって生産された」
「そんな……」
「そして失敗作だ。今月の七日にほどけて消える」
チーミンは枝毛を探す手を止めていた。
信じる気はない。大仰な冗談だと思っている。
だが、チーミンがいるのは異世界で。鳥は喋って。河は雲でできていて。大仰なユゥジンの冗談を、笑い飛ばすことができない。それがチーミンの識域下の海に、波を立てていた。
「その理屈でいくなら、ここ天界こそが虚で、浮槎こそが実かもしれないですよねー」
「吾の発言を、信じるか信じないかはチーミンの自由意志」
だけど、とユゥジンは付け加えた。
「この天界では、浮槎は七月七日に消滅する。それがチーミンの観測する浮槎だという保証はないけどね。チーミンの判断は、世界を滅ぼさないかもしれないが、滅ぼすかもしれない。この選択は、とっても責任重大」
チーミンは、解語の鳥の壮大な宇宙観にあきれて閉口した。
それを勘違いしたらしいユゥジンは、背を伸ばし、大仰に両翼を広げて見せた。
「恐怖に声も出ない? 正常な反応だ。でも安心して、吾は浮槎を救う手だてを知ってる」
「どうやるとー?」
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