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そこは、極彩色の織物の山脈の連なりだった。
「廠長廠長! おわしますか!」
ユゥジンのかしましい鳴き声が、室内に反響する。
「聞えてるようるさいな」
山の端から不快そうに顔をのぞかせたのは――
頭頂部の毛をきっちり二対八で斜めに分け、曇り一つない眼鏡をかけた、融通のきかなさそうな――ひときわデカい乾鵲だった。チーミンくらいの背丈がある。
月廠長だというデカい乾鵲(オス)は、全身からただならぬ気を発している。
「っ、なんて負の気だ! 直近一刻の間に、この世で最もダサい服でも着せられたかのかよ、このデカ鳥!」
容易に人を寄せ付けない気配というのがあるが、あんな受動的なものじゃない。これは攻める拒絶だ。一発かましてやれば万事決着だと思っていたチーミンは、早々に認識を改めることになった。このデカ鳥、全身から溢れる拒絶の気で、隙がない。
チーミンが身構える側から、廠長は一見して難のなさそうな織物を一巻き取り上げる。
ためつすがめつし、その織物の織り目がいかに歪んでいて、糸つなぎがおかしいか、制作者の人間性に踏み込んで酷評する。本人が読んだら蹲踞(三角座り)して洟をすすりながら辞表を書きそうな査定文を、官僚試験の合格者みたいな美文字で書きつけていく。
ユゥジンは、至極重要そうに解説した。
「うちの廠長、第一印象が最悪な上、すごく細かい」
「いましたよ、私の職場にも。こういう異様に細かいヤツ……」
チーミンは思い出したくない過去がわずかによぎり、やや白黒の鳥たちに同情した。
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