1章 ようこそ天上界

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1章 ようこそ天上界

浮槎(ふさ)は、織女神の開いた(くに)だ。 七番目の月に入れば、彩糸と花が路地を飾りはじめ、この時期だけの特設の市に、老若男女が群がる。 (そら)をあおいで、しきりに指さしているのは占師くらいのもので、その先に不穏な赤い妖星を見つける者はいても、皆それどころではなかった。 千億万里離れた不吉よりも、数日後に迫った祝祭の、その利益(りやく)にあずかれるか否か。その一点こそが重要だったから。 「今年こそ、すばらしく織物がうまくなりますように!」 「織科(しょくか)に登第して宮中で栄華を極めるには何を供えたらいいの?」 七月の浮槎は、織物と祭事の話でもちきりだ。 来たる七月七日は、重七(ちょうしち)祭。織物じょうずな浮槎の国祖、織女神の祝祭日。裁縫や織物の巧手である彼女に近づけるよう、人々は祈る。 特に毎年、熱心な祈りを捧げるのは、宮中人で。 わけても、織主(=王)のお召しになる衣を制作する部署――華錦坊(かきんぼう)の織官たちの熱は群を抜いていた。 その織官たちでさえ、宮中の華錦坊内に設置された織女神の祭壇には、困惑の声を上げた。
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