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一方、がりがりがり、と廠長は筆で頭をかきむしった。業務中、他人に傍にいられると、落ち着かない性分らしい。気難しさを画に描いたような鳥だ。
「私語する暇をボクに分けて貰いたいものだよ? きみたちはアレ? 意図的に雑な仕事をすることによってもれなくボクの叱責を賜りたいという婉曲なかまってちゃんなの?」
「廠長、そんなことより」
上司の皮肉をさらっと流して、ユゥジンは恭しく頭を垂れた。
「このチーミンなる虚無主義者の目を真実の光で照らしたいので、<表>と<布>をお借りしたく」
ハ~と、廠長は、人を申し訳ない気分にさせるためだけにあるような嘆息をする。
「ユゥジン君、また招いた織客を虚無主義者にしちゃったの? 向いてないよこの仕事。辞めてもどこも雇ってくれないだろうけど。それから、使っていいのは一尺までだよ? ユゥジン君ずさんだからどうせ忘れちゃうと思うけど、使った分は記帳して、自分の印を押して、使用後は櫃の鍵も閉めて?」
廠長は引き続き、一見全く瑕疵のない制作物に、容赦なく、「簒繹(織り込みが密でない)」と、部下悲鳴必至の落第印を連打していく。
このデカ鳥男子を絞ったら、批判精神が実体化して現れるんじゃないか。と思われたが、一方、彼の部下たちの精神はザルらしく、ユゥジンは、全く動じず軽やかに羽を広げて礼を取った。
「感謝します廠長!」
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