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「理解できた? これがチーミンの世界で起きてることとこれから起こること」
「浮槎にはやばい穴が開きかけていて、その布みたいなもので補修できる?」
「察しがいい。この布は世界を補修する。ここ天上界も含め、一つの世界は縦糸と横糸の織り重なりでできてる。だから、この補修布で補修できる。ただしこれは天界用の補修材。浮槎に使う補修材は、浮槎の民が織らなくちゃいけない」
「例のやりがい搾取案件な」
「一方、この<表>に任意の世界の名を書くと、その縦糸と横糸を、任意の刻限に解くことができる。規格外品を処分するときに使うんだ」
「浮槎に綻びがあるように見えませんでしたよ、私の目には」
「誰しも、自分の世界が他世界に比べて劣るなんて思いもしないものさ。でも、天上界に来ても――比較できる対象がある状態でも、まだそう思う?」
言われて、チーミンは浮槎と天上界の違いを思い浮かべてみた。そして気づく。
天上界の、夜空の色。その深さに。こちらが正しい夜の色なのだとしたら。暮れても菫青色にしかならなかった浮槎のあの夜空は。
「……浮槎は、夜の部分の織り目が粗いから、昼の部分が透けてるってことですか?」
「チーミンはほんとに優秀な織客だなあ。そうなんだ、そういうわけで浮槎は規格外品。だからこの〈表〉に名が――わっ、チーミン、動物虐待!」
勢い込んで襲い掛かるチーミンから、ユゥジンは器用に逃げ回った。
「逃げんじゃねえ、その処分表をテメエから奪って焼けば、浮槎の滅びを止められるってことだろ! 世界を織り直すより早え!」
「嬉しい、とうとう吾の言葉を信じてくれたんだね! でもそうはいかない、この表に触れられるのは、廠長と乾鵲だけなんだ」
「決め事ってのは破るためにあんだよ」
「チーミン気を付けて! 他の者が<表>に触ると、存在がクッソダサくなるんだよ!」
「うわ、それだけは死んでも嫌、勘弁してください」
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