1章 ようこそ天上界

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「早すぎ、チーミン。もう重七の準備ってさすがに引くわ」 「そうかなー」 祭壇設営に余念がないチーミンは、作業の手を休めずに生返事した。 「チーミン、重七祭までは、今日を入れてあと六日もあるんだよ」 「とか言いながら、なんでみんな、私の祭壇に便乗してるのー?」 祭壇を磨く者だけではない。供花の向きのにこだわる者、早々と彩糸を七本の針に通そうとする者……と、チーミン設営の祭壇まわりは人が絶えない。 裁縫や織物が実際、祈りによって上達するなんて、実力主義の華錦坊では、誰も思っていない。ただ、昼夜同じ場所に座り、ひたすらに機を織る、単調極まる織官の生活において、重七の祭事は貴重な娯楽だ。 突然、ある同僚が振り向きざま、深刻な様子でチーミンへまくし立てた。 「最悪。やる気あるのチーミン? この祭壇じゃ、五色の雲が湧かないよ!」 五色の雲とは、七月七日の夜、行いの正しい者の前に浮かぶという瑞祥で。見ることができた者は、願いが叶うという。 この同僚は、チーミン自慢のこの祭壇に不備があると言いたいらしい。
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