2章 星の修復

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動揺を悪態でひた隠すチーミンと、新しい織客に興味津々で好奇の目を向ける鳥美青年たちの膠着は、(はさみ)によって破られた。 チーミンは、ユゥジンに握らされた剪で我に返った。 「さあ、皆の袖という袖を切り取るんだ! それが修復材の原材料!」 「皆ってあの男子たちの?」 「残らずだ!」 躊躇している暇はない。 チーミンの世界は、あと五日でほどけて無に帰してしまうらしい。乾鵲が化けた見目麗しさなど、所詮虚構にすぎない。すぎないはずなのだが。 「やほ、彼女。新しい生活には慣れた?」 「こないだみたいにまた踏んでよお」 「袖を切るとは、なんたる破廉恥。好きだ」 「ああっ、そんなとこ切っちゃうの、切っちゃうのお、きわどいなぁ!」 「好きなくちばしの形は? おれの結構色っぽいって言われるんだけどどう?」 奇妙なことに、彼らの袍の袖は、剪を入れると、そこから美しい漆黒の羽毛となった。美人の森を進むにつれ、チーミンが提げた竹籃は、羽毛で幾杯も満たされていった。 あらかた刈り取り作業が済むと、ひょいとユゥジンがのぞき込んできた。 「――ええっ、チーミン、何で今にも死にそうなほど失血しているの?」 多量の出血で座り込んでしまったチーミンを見下ろして、とびきりの美青年ことユゥジンは小首を傾げた。 「天上界の愛とやらは、刺激が強すぎるんですよ」 美を追究するのが生業の織官であったチーミンは、美に対する感受性が極めて強い。極上の美形男子群が、早く鳥の姿に戻ってくれないと、鼻から失血死する。と、チーミンは頭をくらくらさせた。
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