1章 ようこそ天上界

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舟の漕ぎ手の、チーミンに対する態度もうやうやしい。 「大人(偉い人への敬称)、簾をおろしましょうか」 「かまいませんよー、民が身なりを意識するのは、われらが始祖・織女神の意にかなうこと」 「なれど、その織女神に(めぐ)された御手を持つ織官ともあろう方を、あのようにぶしつけな目で見やるとは……!」 「よいのですー。織り方にせよ、縫い方にせよ、技術とは盗んで覚えるものです」 チーミンは軽い調子で手を振った。 織官の衣装の細美さは、織主(おう)に次ぐ。その技術は浮槎(くに)の誇り。民に心行くまで織り目を鑑賞させるのも、織官の役務だ。宮中出仕となった十年前から、王や先達から、そう叩き込まれている。
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