どうしても 会いたかった

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「本当に行くの? まだ1ヶ月経ってないんだよ?」  心配する珠実と降り立ったのは通り魔に襲われたときにいた通りの最寄り駅。この場所がトラウマになっていないかを確認するため珠実についてきてもらったのだ。  駅から外に出ると、梅雨が明けて雲1つ無くきれいに晴れた空が広がっている。そのままあの事件があった通りへと向かう。  何度も通ったその道は、いつもと何も変わらなかった。いつもの光景、なんてことない。うん、大丈夫そうだ。  そのまま事件のあった場所を通り過ぎて、珠実と近くの喫茶店に入り、パフェを頼んだ。私がいちごパフェで珠実はマロンパフェ。この店のパフェは値段の割に大きいことが売りだった。  パフェをつつきながら、珠実にお礼を言う。 「付き合ってくれてありがとう。この感じなら1人でも来れそう。意外と平気なもんね」 「まあ、犯人も捕まってるしね。だけど早すぎない? せめて傷が治ってからにすればいいのに」 「もう少しでこの包帯も取れるしすぐ治るよ。来週来たいんだ」  私がここに来る理由を知っている珠実は心配そうに私を見る。 「家は相変わらずなの?」 「ん……そうね。私が20歳になるまでって言い張る割に喧嘩ばっかで。あと1年ちょっとだし、こんな状態が続くくらいなら別れればいいのに」  父と母が喧嘩をし始めるようになったのがいつかはもう覚えていない。気付いたときには二人の会話の殆どは喧嘩になっていた。  私はそんな2人の姿を見て落ち込んだときにここに来ている。  1週間後、私は1人で同じ駅に降り立った。少し緊張はあるけど、先週を思えば不安はなかった。駅を出ると、パラパラと雨が降り始めている。私は鞄から折りたたみ傘を取り出した。  傘をさして歩いていると、徐々に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。先週はこんな事無かったのに。傘で視界が遮られているだけで、その向こうに誰かがいるんじゃないかと不安になり、目の前にナイフを持ったレインコートの男がいるイメージが脳裏から離れなくなった。  急に吐き気が襲ってきて、その場にしゃがみこんでしまう。 「大丈夫ですか?」  声をかけられて顔を上げると男の人が覗き込んでいる。たぶん……いや、絶対に違うんだけど、一瞬あのレインコートの男の人と顔が重なってしまい逃げ出そうと立ち上がった。  ……つもりだったのに、慌てていたせいかふらついてしまう。そんな私をその人が支えてくれた事にさらに驚いてしまい、その人から離れようと腕を振り回していると、体を優しく抱きしめられて、耳元で囁くように声をかけられた。 「落ち着いて。僕はあなたに危害は与えません。大丈夫ですよ」  安心感のある声に、一気に体から力が抜けていった。私が暴れたせいでお互い傘が下に落ちてしまい濡れてしまったので、近くの屋根のあるベンチへ連れて行かれた。
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