どうしても 会いたかった

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「落ち着きましたか?」  男の人は近くの自販機で買った水のペットボトルを渡してくれた。私はそれを受け取り一口飲んでから顔を上げた。 「すみません、助けていただいたのにご迷惑おかけして」  もう平気だと思っていたのにまだこんなに引きずっていること、助けてくれた人までを疑うなんて失礼なことをしてしまった自分に落ち込まずにはいられなかった。 「あの事件の被害者なんだから仕方が無いです。最後に犠牲になった人ですよね」  通り魔事件の事そこまで報道されていたんだろうか。自分が被害者だと分かった事に驚いた。私が目を見開いて見つめていたからだろう。隣りに座って改めて話し始めた。 「僕、あの事件があったとき現場にいたんです。犯人を取り押さえる勇気は出なくて、それは他の人がやってくれたから被害者の人を助けに行って、その時あなたを見ました。自分を犠牲にして他の人を助けた勇気ある人だって感心したので覚えていました」 「そうだったんですか。じゃあ、さっきの私見て驚きましたよね。あんなに狼狽えちゃって、恥ずかしいです」 「そんなことないです。あんな危険な目にあったんです、当然ですよ。でも、なんでまたあそこに……?」 「どうしても行きたいところがあるんです。先週友達と来たときは大丈夫だったんですけど。1人じゃ無理なんですかね」  私はもうここには来れないのだろうか。そう思っていたら、私の考えを優しくフォローしてくれた。 「先週は晴れていましたから。今日はあの日と同じで雨が降っていて、視界が悪いです。それが辛い記憶を呼び起こしてしまったんじゃないですかね」 「そうですかね……そうだといいですけど。今日は帰ります。あ、お水代いくらですか?」 「そんなのいいです。それより、またここに来るなら教えてもらえませんか? いざというときのために僕待ってます」  これ以上迷惑はかけられない。私は彼の手に200円を握らせた。 「大丈夫です、駄目そうならすぐ帰りますから。これはお水代です。ありがとうございました」  それだけ言って、駅の方へ走り出した。駅について振り返ると彼の姿は無かったので、そのまま電車に乗って帰宅した。
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