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「これは僕の自転車です。僕この後バイトがあるので、しばらく使いません。これでおばあさんの家まで行けないですか?」
歩いているとあの時のことを思い出してしまう、自転車なら……いけるかも?
サドルの高さを調節すれば私でも何とか乗れそうだった。
「すみません、お言葉に甘えてお借りします。あの、連絡先聞いてもいいですか? 戻ってきたら連絡します。……って言うか、名前も聞いていませんでしたね」
そうして私達は連絡先を交換した。彼は白井拓真さん、21歳の大学生だった。私は自転車に乗っておばあちゃんの家に向かった。
事件があった場所も自転車なら一瞬で通り過ぎ、あっという間におばあちゃんの家に到着した。
「和歌ちゃん、最近来てなかったけど大丈夫? 体調崩してたんじゃないの?」
家に入るなりおばあちゃんに心配されてしまった。週に2〜3回は来ていたのに突然1ヶ月以上来なくなれば心配するのも当たり前だ。
「違うの。大学入ったばかりで、慣れない課題に苦戦しちゃって。心配させてごめんね」
私は用意していた言い訳を口にし、おばあちゃんはそれ以上何も聞かなかった。
「今日は和歌ちゃん来るから、里芋の煮っころがし作ったのよ。好きだったでしょ? 味見して、気に入ったら持って帰って」
「本当? おばあちゃんの煮っころがし美味しいんだよね。やった、ありがとう」
そうして煮っころがしを食べながら学校の話で盛り上がり、2時間後に私は元の場所に戻ってきた。
“ありがとうございました、無事おばあちゃんの家に行けました。自転車は元の場所に置いたので、鍵を返しに行きます”
メッセージを送信して、コンビニに入り白井さんの元へ向かい、お礼を言って鍵を返した。
「僕平日のこの時間は大抵ここでバイトしてるんで、いつでも連絡ください」
私は白井さんのその言葉に甘えて、毎回自転車を借りておばあちゃんの家に行くことにした。
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