四日目

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どうしたら、気付いてもらえるだろうか。   わたしは、今日も文庫本を読む振りをして、電車の窓に映った彼の姿をそっと見つめた。 今日も彼は同じ場所で音楽を聞いている。   と思っていたら……   学生カバンから文庫本を取り出した。   え、何で?   彼は、本を開くとページに眼をやる。そして、直ぐにページをめくってしまった。 読んでいないことがバレバレだ。 ページをめくる指使いも非常にぎこちない。   そして、おどおどと顔を上げた。 ぷっ、思わず吹き出してしまった。   何あれ!   かわいいー!   わたしは、文庫本で顔を隠すと、込み上げてくる笑いを必死で抑えた。 何とか笑いを堪えて顔を上げると、電車の窓ガラスに映った彼と目が合ってしまった。 「あ」   彼の小さな声が聞こえる。   やばい! わたしは、慌てて文庫本で顔を隠すと、彼に背を向けて扉の方を向いた。   ばれた……   わたしが彼をずっと見ていたこと。   恥ずかしさで両頬が熱くなる。   だけど、何で?   何で、谷口君は、文庫本なんか出したんだろう。   ひょっとして、   わたしのこと、前から見てた?
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