14人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしたら、気付いてもらえるだろうか。
わたしは、今日も文庫本を読む振りをして、電車の窓に映った彼の姿をそっと見つめた。
今日も彼は同じ場所で音楽を聞いている。
と思っていたら……
学生カバンから文庫本を取り出した。
え、何で?
彼は、本を開くとページに眼をやる。そして、直ぐにページをめくってしまった。
読んでいないことがバレバレだ。
ページをめくる指使いも非常にぎこちない。
そして、おどおどと顔を上げた。
ぷっ、思わず吹き出してしまった。
何あれ!
かわいいー!
わたしは、文庫本で顔を隠すと、込み上げてくる笑いを必死で抑えた。
何とか笑いを堪えて顔を上げると、電車の窓ガラスに映った彼と目が合ってしまった。
「あ」
彼の小さな声が聞こえる。
やばい!
わたしは、慌てて文庫本で顔を隠すと、彼に背を向けて扉の方を向いた。
ばれた……
わたしが彼をずっと見ていたこと。
恥ずかしさで両頬が熱くなる。
だけど、何で?
何で、谷口君は、文庫本なんか出したんだろう。
ひょっとして、
わたしのこと、前から見てた?
最初のコメントを投稿しよう!