五日目

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五日目

よかった。 今日も彼女は同じ場所で文庫本を読んでいる。   だけど、彼女は僕に背を見せて完全に扉側を向いていた。   警戒、させてしまったかもしれない。   僕は、ため息を一つつくと、イヤフォンを耳に着けた。   文庫本を出そうかどうか迷っていると、彼女が、おもむろに学生カバンを開けた。   僕が見るとはなしに彼女を見ていると、彼女はカバンからイヤフォンを取り出した。   え?   そして、イヤフォンを耳に着けると、文庫本をその手に持ち直し、そっと本を開いた。   これって、もしかして……   僕は、慌ててカバンから文庫本を出して、手に持って開くと、彼女ではなく電車の窓に映る彼女を見つめた。   そこには、僕を見つめて、恥ずかしそうに微笑む、佐伯さんが映っていた。
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