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「なんか絵美子がちょくちょく連絡して、相手してもらっとるみたいで、ごめんね。忙しいのに」  ごめんねという語尾が下がる感じで祐太郎を思い出す。 「ぜんぜん。若い子に刺激もらってます」  若い子というより、娘のような年齢なのだが。  四十二の秋元佑は言いながら、自分の年齢を振り返る。 「それならいいけど。あの子は誰に似たのか、落ち着きがないし、人の都合を考えないから。突っ走り型」  二歳年上で絵美子の母、風子が少し苛立った声を出す。  母と娘の関係はなかなか難しいというから、仲のよさそうな二人にも小さな溝ぐらいはあるのだろう。 「そうかな。十八のときなんてみんなあんなもんじゃないですか」 「そうかねえ。私や祐太郎はちがったと思うけど」 「そうですね、祐太郎は、違いましたね」  十年前に死んだ祐太郎は物静かな男だった。  そして、こちらの顔色を伺いすぎるぐらい伺う男だった。 「あの子はまた特別静かだったからね。私もあの子に比べたら、チャラチャラしとったかもしれん」 「そうですね」  二人をつなぐ男、祐太郎は電話の相手、日比野風子の弟で、佑の大学時代の恋人だった男だ。  別れた恋人が自殺して十年、その姪っ子が進学を機に東京へ出てきた。  そして、なぜか佑に懐いている。  風子は佑と祐太郎の関係を絵美子には話してないというが、何か感じとっているものがあるのではないだろうか。  佑は気になる。  風子や自分たちとは違い、あの世代の子たちの間では、男同士で付き合うということをラフに受け止めている。  絵美子はバカではないし、想像力も働く。  風子以外の家族には決してカミングアウトしないと言っていた祐太郎の意志を継ぎたい佑は、絵美子の前では、年下のキャリアウーマンの恋人がいる、少しモテるノンケの中年男を演じている。
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