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 久しぶりに風子の声を聞いたのは、祐太郎と別れたことを後悔することもなくなり、少しは自分の時間がとれる生活がしたいと医療機器メーカーに転職したころだった。 「良かった電話番号変わってなくて。風子です」 「あ、お久しぶりです」  突然の電話に驚いた。  なんでとしか思わなかった。 「元気? 佑くんはまだ横浜に?」 「あ、いや、東京に」 「そっか。仕事は?」 「医療機器のメーカーで営業を」 「MRは?」  情報が止まっている。やりとりがなくなったのだから当たり前だ。 「半年前に転職したんです」 「そう。じゃあ、忙しいね」 「あ、いや、そんなことは。少し楽になるために仕事変えたんで」 「そう。祐太郎が」 「はい」 「死んだわ」 「え?」 「横浜のマンションで自殺した」 「・・・なんで」 「理由はわからない。いま、岐阜から出てきて、祐太郎の部屋の整理しとるんよ。良かったら、会わない?」  最後に会ってから十年以上が経っていた。  学生時代はもう遥か彼方に、日々の風に運ばれていた。  とはいえ、久しぶりに会った風子はひどく老けて見えた。  明るく振舞っていたが、あの若さで仲の良かった弟を亡くしたのだから、やはり苦しんでいたのだろう。  自分のことも恨んでいたのではないかと思っていた。  だから、娘がそっちに行くから、暇なときはちょっと遊んであげて、と電話があったときは、本当にうれしかった。
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