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04
久しぶりに風子の声を聞いたのは、祐太郎と別れたことを後悔することもなくなり、少しは自分の時間がとれる生活がしたいと医療機器メーカーに転職したころだった。
「良かった電話番号変わってなくて。風子です」
「あ、お久しぶりです」
突然の電話に驚いた。
なんでとしか思わなかった。
「元気? 佑くんはまだ横浜に?」
「あ、いや、東京に」
「そっか。仕事は?」
「医療機器のメーカーで営業を」
「MRは?」
情報が止まっている。やりとりがなくなったのだから当たり前だ。
「半年前に転職したんです」
「そう。じゃあ、忙しいね」
「あ、いや、そんなことは。少し楽になるために仕事変えたんで」
「そう。祐太郎が」
「はい」
「死んだわ」
「え?」
「横浜のマンションで自殺した」
「・・・なんで」
「理由はわからない。いま、岐阜から出てきて、祐太郎の部屋の整理しとるんよ。良かったら、会わない?」
最後に会ってから十年以上が経っていた。
学生時代はもう遥か彼方に、日々の風に運ばれていた。
とはいえ、久しぶりに会った風子はひどく老けて見えた。
明るく振舞っていたが、あの若さで仲の良かった弟を亡くしたのだから、やはり苦しんでいたのだろう。
自分のことも恨んでいたのではないかと思っていた。
だから、娘がそっちに行くから、暇なときはちょっと遊んであげて、と電話があったときは、本当にうれしかった。
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