その死刑囚、16歳

3/3
前へ
/24ページ
次へ
女医は首に掛けていた聴診器のイヤーチップを耳に嵌め、キャストピースを囚人服を僅かに捲った中に手を入れ心音を聞く。 「 大きく息を吸って、吐いてくれる? 」 「 ふぅー……はぁー…… 」 此処まで素直にやる囚人も珍しいと思うが、それも環境に慣れやすい若い子だと推測を立てれば、納得出来る。 意味のないプライドや遊び心を持った大人の犯罪者は、中々検査させようとはしないからな。 「 うん、大丈夫そうね。相変わらず手足は移動の際の寒さで凍傷になりかけてるけど…しっかり温めて、血行を良くするマッサージをすれば治るわ 」 枷などを付けてない囚人の手首を、擦るようにマッサージする女医に、彼は片手を動かそうとしたのを見て、俺は咄嗟にスイッチを入れようとすれば、彼女の方が片手でそれを止める。 「( 大丈夫だから、待って )」 「 ………… 」 本来なら一度電気ショックを与えたいところだが、止めるのならば仕方無いとスイッチ部分から親指をずらす。 俺等の行動など知るはずもない少年は、自らの右手首を真似るようにマッサージを行った。 「 そうそう。手もちゃんと広げたり握ったりしたらいいわ 」 「( 未成年相手だからと…ぬるいな )」 余り聞かないぐらいの優しい口調に、女はこれだから幼い子には弱いなと思い呆れさえ生まれる。 其れでも何度か繰り返してる内に、青味がかった肌の色は、多少血行が良く見える。 「( 両腕にある古傷とリストカット…精神もやられてるのか )」 よく見れば皮膚が変色してる場所は何度も切ったような痕が残っている。 犯罪者の中で自傷をしてない奴の方が少ないから、余りその辺りは気にならないがな。 「 健康そうだし大丈夫だね。後はちゃんと御飯を食べると元気になるわ。その後…ゆっくりと自分の行いに反省するといいわ 」 ゆっくりと立ち上がった女医が一歩離れると、それ迄黙っていた彼は口を開く。 「 何故…反省しなきゃいけないんだ 」 「 黙れ。口を開くな 」 無駄な私語は厳禁の為に、彼の首元へとスタンロッドの先端を押し付ければ、女医は答えた。 「 貴方が殺した人達には家族や友人がいたはず。残された遺族が悲しむからよ。それに…まだ生きれた若い者達の命を奪った…その罪は大きいわ 」 「 俺を愛し……望んだから、喰っただけなのに…何故俺が、罪に問われなければならない 」 僅かに広げ汚れた長い爪を持つ両手へと視線を向けた彼に、俺が舌打ちを漏らせば女医はそっとスタンロッドを持つ手首に触れ、そっと下へと下ろさせた。 「 反省してないなら、貴方はずっと此処で…孤独を生きるだけよ。行きましょう 」 「 ………… 」 それ以上、彼が口を開く事は無かったが女医と共に個室を出てから、彼女へと忠告をする。 「 私語は謹んで貰いたい。貴女に何かあれば…彼を殺さなくてはならないのだからな 」 「 あら、囚人のメンタルケアも立派な医者の仕事よ?其れよりも、貴方達は血の気が多いわ。直ぐに手を出そうとするなんて 」 チラッとスタンロッドへと視線を落とした彼女に、舌打ちを漏らしてからこの場を出させた。 「 例えそうだとしても。狂犬を服従させるには一番効果があるからな。どうぞ、お帰り下さい 」 「 本当…連れない男ね 」 似た言葉をさっきも言われたと思うが、女医に何かあれば上からどやされるのは俺達、看守だ。 そんな事がないように、最善策を取るだけだが… あんな風に、親しく会話されては困る。 フッと笑って立ち去った女医の背中が見れなくなれば、監視室へと入る。 「 クッソ……。あの女は口を開いてないと気が済まないのか 」 「 そうキレるなって。何があったかなんて察するけど…。囚人のメンタルケア、とか…事実だし 」 ドカッと椅子に座っては丁度良く冷めたマグカップを持ち、一口飲んでいれば同僚の言葉に苛立ちを感じるが、フッと上司と後輩がいないことに気付く。 「 二人は? 」 「 No.S-03さんは盲目の囚人に対しての話を聞きにエリアAに。No.S-93は見張りに周ってる 」 「 嗚呼… 」 監視カメラを見れば、No.S-93が其々の部屋を周って確認してるのを見て納得すれば、監視カメラを見ていた同僚は、小さく笑う。 「 で、どうだった?改めて見たNo.2313は?俺達は彼奴を2313(クゥ)と呼ぶ事にしたんだぜ 」 「 はっ…彼奴等に個別名なんていらねぇ。所詮…豚小屋で生きてる動物以下の連中じゃないか 」 「 御前って…綺麗な顔して、性格歪んでるよな…。死ぬ囚人ぐらい、人間扱いしてやれよ 」 「 御前が言うのかよ… 」 この4人の中で、一番拷問が好きな奴がおかしな事を言ってると思い、少しだけ引いていれば、監視カメラの先ではNo.S-93が囚人に向かって舌を出して挑発のような行動をしてるのを見て呆れる。 「 はは、俺はあれだぜ?拷問していいと言われた時しか、そう言った扱いはしないけど…普段は結構、だいじ……。おぃ、No.S-93!テメェちゃんと仕事しろやカス!! 」 話を中断し、監視室にある放送で文句を言い始めた同僚の態度の変化に溜息を漏らし、適当に置いてある袋菓子に手を伸ばし、 ポテトにチョコがかかったやつだと見て判断し、袋を開けてから、手袋をつけたまま口へと運ぶ。 ゙ さぁーせん! ゙ 同僚の文句すら気に求めず、後輩はカメラに向かって片手で謝る動作をしてから、また歩き出す。 此処には120人が収容されてるが、その多くが部屋を出ることなく一生を過ごす為に、俺達は対してやることもない。 自傷で酷く流血してないか、死んでないか、其れぐらいの確認しかしてないだろうな。 適当に監視カメラを見つつ菓子を食べたり、同僚と交代しながら数分程度の仮眠を取っていれば、17時の夕食のチャイムが、全てのエリアに鳴る。 「 飯だぁぁあ!! 」 「 さっさと食わせろ!! 」 彼等に人権は存在しない為に、食事は一日二度。 朝と夜だけ。 朝はかっすい硬めのパンとコーンの入ったサラダとオニオンスープ。 夜は日替わりだが、そんな良いメニューではない。 だが、他の看守によって運ばれてくる其れを、俺等は3人で全ての部屋に配っていく必要がある。 「 ほら〜。食えよ、豚共。飯の時間だぜ〜 」 「 今日は鶏肉じゃん。まぁまぁいいねー 」 硬いフランスパンと鶏肉のソテー、ツナサラダ、ひよこ豆のスープ。 メインが違うだけで、相変わらずしょうもないなって思い部屋の扉の下側にある、トレーが僅かに入る隙間に置いて、爪先で軽く蹴って中へと突っ込み、次の場所へと運ぶ。 「 おぃ、No.2313。飯の時間だ…寝る時は片手をベッドから出せ 」 脱獄してないか確認の為に、ベッドに入る際は片手を外に出して目視で確認する必要があるが、それが無い為に声を掛ければ全くの無反応で呆れる。 「 チッ…… 」 仕方無く扉を開け、適当に古びた小さめのテーブルの上へとトレーを置き、ベッドへと近づく。 「 No.2313、寝てるのか……ッ!!? 」 薄手の布団へと手を伸ばそうとした時には、手首を掴まれ引き込まれていた。 一瞬の出来事に油断したと驚けば、布団を被った彼は完全に脚と片腕を使い俺の身体を封じ込んだ。 「( 心配して損をした…!! )」 外では食事の時間だからと騒ぐ連中とそれを相手にしてる同僚と入って3年程度の部下のみ。 監視室には誰もいなく、俺が一人姿を消しても彼等が気にすることはない。 上司は長ったらしい話に捕まったのか、帰って来ないし…。 「 クッ……! 」 逃げようと動く度に、肩甲骨の間に力が込めれてる為に、起き上がることすら出来ない。 口を開こうにも頭部を押さえつけられてる事で発する事もままならず、背後にいる人物を横目で睨めば、彼の片手は首から身体になぞるように触れた。 「 身長185cm…体重67kg…。匂いからして…A型 」 「( 初日早々…ターゲットになるなんて、…俺は馬鹿か! )」 警告が無意味のように、頭の中に鳴り響くサイレンがやけに五月蠅く感じる程に、彼は口角を上げ舌なめずりをする。 「 イタダキマス 」 「( コイツ……殺していいだろうか )」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加